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あの味この味 区切り

2018年8月1日

株式会社元気アップつちゆ

温泉観光ならぬ
産業観光で土湯のにぎわいを

 

加藤勝一代表取締役社長

 

■土湯の自然を生かした発電事業

 

――まずは事業内容からお聞かせください。

 

加藤 当社は、震災と原発事故によって被害を受けた地元・土湯温泉町の復興再生と震災前を超えるにぎわいを取り戻すことを目的に、平成24年に地元資本により設立されたマチづくり会社になります。現在、土湯温泉の自然エネルギーを生かした再生可能エネルギー事業に取り組んでおり、具体的には温泉を利用したバイナリー発電と町内を流れる河川を利用した小水力発電が主たる事業となっています。

 

バイナリ―発電は地熱発電の一種ですが、地熱発電というと一般的に地下深く掘削するフラッシュ式をイメージされる方もいるかと思います。しかし、当社が行っているバイナリー発電はフロンやペンタンなどの沸点の低い有機媒体を温泉の熱交換によって蒸発させてタービンを回す仕組みで、地下からの蒸気や熱水で直接タービンを回すフラッシュ式とは全く異なる方式です。また、蒸発した媒体は再び発電に利用するため、湧き水で冷却し液体に戻すことになるのですが、あくまで熱交換するだけですので温泉、湧き水と直接触れ合うことはありません。ですから、発電量ではフラッシュ式に劣るものの、バイナリー発電の場合、温泉の温度が若干下がるほかは湯量、成分ともに何ら変わることはなく、自然環境に負担を掛けずに発電出来るのが大きなメリットとなっています。

 

現在、利用している「16号源泉」は蒸気と熱水を合わせた温度が140度近いことに加え、流量は一時間当たり約37㌧と豊富にあるため、当社が使っている沸点30度のノルマンペンタンであれば一瞬にして蒸発することが出来ます。その際の気圧は10気圧以上に達しますが、もともと16号源泉で噴き出している気圧が約3・5気圧であることを考えると、相当なエネルギーを生み出していることが分かるかと思います。

 

国内的にも400kW級で商業運転を行っているバイナリー発電所は珍しく、現在は一般の約800世帯に相当する年間260MWhの電力を発電しています。発電機の設備に約6億円の費用が掛かりましたが、売電収入は年間約1億円に及ぶためこのまま順調にいけば7年以内には償却出来ると思います。

 

また、小水力発電では東鴉川の第3砂防堰堤の落差を利用した140kW級の発電所が稼働しているほか、これら発電事業以外では、かつて市内荒井地区の特産品であったこんにゃくの製造と加工、販売を行う「こんにゃく工房金蒟館」の運営や、最近ではバイナリー発電後の熱水を2次利用した養殖事業にも取り組んでいるところです。

 

■エビを土湯の特産品に

 

――昨年5月から始まった養殖事業では、現在50㌧の大型水槽で約3万匹のオニテナガエビを養殖されているそうですね。

 

加藤 オニテナガエビは東南アジア原産の大型種で、このエビを「つちゆ湯愛(ゆめ)エビ」と名付けて産卵孵化から繁殖までを一括して実施する完全養殖で行っています。エビの養殖は水槽の水温管理に多大な光熱費が掛かるため、国内でもなかなか養殖が進んでいないのが実情です。当社ではバイナリー発電後の温泉水と冷却水を掛け流しで利用することで、そのコストを軽減させています。出荷に適した親エビに成長するまでには半年ほど掛かり、現在は1カ月当たり約1500匹を出荷しているところです。

 

――今年4月には養殖したオニテナガエビの釣り体験が出来る釣り堀がオープンしました。

 

加藤 営業は週末の土日になりますが、お陰様でオープン以来、子供連れの家族層を中心に1日50人から60人、多い日は100人ぐらいのお客様に来て頂いていました。ただ、大変申し訳ないことですけど、予想以上の入り込みだったことから、いまは安定供給のため休みを頂いている状況です。エビが釣れるのは1人3匹までですが、そうなると1日最大300匹、1カ月で2400匹ほどのエビが必要になります。先ほど申し上げたように月1500匹ほどの出荷体制のため、現在は安定供給に向けた体制づくりに努めているところで、夏休みに入る7月21日に再スタートする予定です。

 

この「つちゆ湯愛エビ」については対外的な販売は予定しておらず、あくまで土湯温泉のみでの消費を考えています。現在は釣り堀のみですが、将来的には地元の旅館や飲食店に提供して土湯の特産品としてブランド化させることで、地域活性化の一つの起爆剤にしていきたい。そのためには最低でも月3000匹は必要になると考えており、今後は水槽の増築や養殖場の用地確保などを進めていく方針です。また、現在は初期投資の償却や生産数が少ないこともあって1匹当たりの値段は一般市場と比べて相当高くなっていますので、大量生産や効率化によるコストダウンも今後の課題ですね。

 

――最後に今後の抱負を。

 

加藤 昨年はバイナリー発電やエビの養殖事業の視察のため、県内外から約2500人もの見学者が訪れ、その半分以上が地元旅館に宿泊されました。また、売電収入の一部を地元小学校の給食費無料に使ったり、路線バスの定期券を高齢者や高校生に無料で配布するなど、当社は発電事業がメーンではあるものの、あくまでそれが〝目的〟ではなく、〝手段〟だと考えています。
発電事業だけであれば別にほかの地域の企業に任せてもいいのですが、それでは地域の活性化にはつながりません。つまり、重要なのは売電がいくらになったではなく、地元の資源を活用してどう復興再生につなげ、どうにぎわいをつくり出していくかなんですね。

 

バイナリー発電の視察のため多くの人が土湯を訪れたように、会社設立以来、産業観光という位置付けで「再生可能エネルギーを活用した温泉観光のモデル地区」を目指してこれまで取り組んできました。今後も発電事業の安定的な運営はもちろん、地元の人口減少対策や地域活性化につながる取り組みを模索していきたいと考えています。 (聞き手・斎藤 翔)

 

■加藤勝一代表取締役社長略歴

 

昭和23年11月13日、福島市生まれ。福島商業高校を卒業後、家業の石材業に就いたが、後に親戚の旅館業を引き継ぐ。平成9年に旅館業から介護福祉業に業態転換し、社会福祉法人多宝会を設立、29年7月まで理事長を務めた。現在、市内で夫人と息子夫婦、孫3人と7人暮らし。趣味は旅行。3年から19年まで4期16年にわたり福島市議を務めたほか、現在は土湯温泉町地区まちづくり協議会長、湯遊つちゆ温泉協同組合理事長などを務める。

 

■企業 DATA

 

設立:平成24年10月

 

所在地:福島市土湯温泉町字下ノ町17

 

事業内容:バイナリー発電、小水力発電、エビ養殖業、こんにゃく工房金蒟館の運営

 

資本金:2,000万円

 

従業員:10人

 

http://www.genkiuptcy.jp/

 

(財界ふくしま2018年8月号掲載)

 

 


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