野菜の生産品種を拡大し
低カリウムカレーで食卓を明るく
■松永 茂代表取締役
■農家と競合しない野菜作り
──植物工場の開設に至った経緯は?
松永 当社は、昭和42年に富士通㈱の協力工場として会津に創設致しました。当時、富士加工㈱の本社は東京にあり、その会津工場として半導体の製造に邁進しておりました。好景気のころは200人以上の従業員が3交代で、24時間フル稼働の多忙な時期が続きました。平成に入ると半導体の製造は、人件費の安い海外で行うようになり、平成23年には富士通からの仕事が終息し、仕事も半分ぐらいに減ってしまったんです。
そこで、使わなくなったクリーンルームを利用してほかの事業が出来ないかと考え、従業員の力も借りてこれから何をやりたいかを考えたんです。そこでいくつか案が上がった中に水耕栽培事業があり、最初は着眼点としてはいいかもしれないなと思いました。しかし、水耕栽培事業についていろいろと調べたところ、既に第2次ブームまでが終わっていたんです。これから取り組む事業を失敗させるわけにはいかないので、なぜブームが終わったのかを調べたところ、原因は「コスト」と「販路」でした。この2つを何とか克服しなければ、新規事業の勝算はないため、様々な方法を模索しました。
水耕栽培におけるコストは農家さんのコストをベースに考えると高く、販路については、野菜というのは基本的に農家のところから市場に出されます。つまり農家を敵にしてしまえばまず勝ち目はないわけです。そこで水耕栽培事業を新しく行うに当たり、農家と競合せずに生き残る方法はないかと考え、農家の野菜を食べない、もしくは食べれない人がいるということに着目しました。まずは、その方たちが食べられる野菜作りを目指しました。
──どういった野菜を目指したんですか?
松永 まずは「野菜嫌いなお子様に『おいしい』と喜んで食べてもらえる野菜を作りたい」、そんな思いから、安心・安全・洗わなくてOKで、更に甘みのあるレタス作りを目指し、試行錯誤を繰り返す日々を送りました。そこから生まれたのが、「mido菜」です。
次に、腎臓病の患者さんはカリウムの摂取量が制限されており、野菜がなかなか食べられないことを知り、低カリウムレタスの生産を始めました。既に秋田県立大学が開発し、特許を取得していたのですが、量産して販売するまでには至っていませんでした。当社としては、「量産をして早く患者さんに届けたい」という思いがあり、ほかの企業の方の力も借りて、フランチャイズ事業も始めました。
──新しい分野に挑むことは、苦労も多かったのではないですか。
松永 いろいろありましたね。一つは子供が食べられる野菜作りにおいて、大人と子供の味覚は違うため、甘くなったと感じて実際に従業員の子供に食べてもらってもまだ苦くて食べられないということが続き、結構な量の野菜を廃棄しましたし、時間も掛かりました。何度も試行錯誤を繰り返すうちに、従業員から「いま目の前で子供が野菜を食べています」という電話をもらった時はうれしかったですね。
低カリウムレタスを作る際も、いままで食べられなかった患者さんたちがやっと食べられる野菜なのだから、おいしくなくてはいけないという考えの下、開発を進めました。最初のうちは低カリウムにはなっても、あまりおいしくありませんでした。その後試作品を何度も作り、私さえOKを出せば売れる段階まで漕ぎ着けました。しかし、私は従業員に迷惑を掛けているんじゃないかと感じながらも、もっとおいしいものにしなければ従業員たちを不幸にしてしまうという気持ちから、心を鬼にして改良を続けたんです。
──最終的にOKを出した決め手は何だったんですか?
松永 まずは、生で食べた時のシャキシャキ感が出せるようになったことです。次に味の中でも特に、口の中で違和感なく感じる苦味があることです。これらは当社の製品の品質であるため、お客様に喜ばれる製品を作り出すことが会社の信頼にもつながるという考えを持って判断しました。
アントレプレナー東北地区ファイナリストに
──これまで従業員と力を合わせてきたという印象を受けますが、松永社長にとって従業員の存在とは?
松永 私にとっては仲間なんですよ。たまたま私が社長になっているだけであって、入社してからずっと一緒に作業をしていましたから、仲間という意識が強いです。だから従業員には幸せになってもらいたいという思いで、社長としての仕事をするようにしています。従業員が安心して働ける会社にしたいですね。
──今年、優れた起業家を表彰する「アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー・ジャパン」の東北地区ファイナリストに選ばれましたね。
松永 グランプリには選ばれませんでしたが、とても光栄で、表彰して頂きうれしく思います。しかし当社はまだ道半ばであり、開発途上の会社です。これからもっと企業を成長させ、再びトライしてみたいですね。
また、評価して頂いたことで、当社を知ってもらうきっかけになったと感じます。人から着目されたことで、より向上心を持っていかなければと感じます。
──今後の展望については?
松永 まずは現在のレタスと期間限定で生産しているメロンから、更に低カリウム野菜の品種を拡大していきます。腎臓病患者さんに、低カリウムなのに普通の食事がとれることを定着化していきたいです。
最終的には低カリウムのカレーを作りたいというのが私の夢でもあります。カレーは家庭食の定番であり、腎臓病も関係なく家族みんなで同じカレーを囲んでもらい、食卓を明るくするようなお役に立てれば幸いです。いずれはレトルト化を実現させ、保存食や非常食として、災害が起きた時に腎臓病の方でも食べられる食事の支援も出来るようにしたいと考えています。
また、これからベンチャー企業として頑張る方たちへ、我々の経験などを生かした支援づくりも出来ればと考えているところです。(聞き手・作間信裕)
■松永 茂代表取締役 略歴
和28年3月30日、福岡県生まれ。明星大学理工学部を卒業後、東京の城南東芝商品販売㈱に入社。その後、53年に同社へ入社。平成16年に常務取締役、23年に取締役社長に就任し、25年に現職に就いた。現在は会津若松市内で夫人と2人暮らし。趣味は、時間がある時にやるという庭いじり。
■企業 DATA
創業:昭和57年
所在地:会津若松市町北町大字荒久田字宮下15-1
事業内容:ウエハー製造装置の部品作製、植物工場関連商品販売
資本金:6,200万円
従業員数:47人
http://www.afk-net.com/
(財界ふくしま2014年11月号掲載)