電気を使わない自動ドアで
海外進出を目指す
橋本 保 代表取締役
■電気を使わない自動ドア「オートドアゼロ」
──利用者の体重によってドアが開閉する、電気を使わない自動ドア「オートドアゼロ」が注目を集めていますね。床下に仕込まれているパンタグラフのシステムによって、ドアの前にある踏み板に乗るだけで開閉が出来るとのことですが、そもそも「オートドアゼロ」の開発に至った経緯は何だったのでしょうか?
橋本 もともと当社は、桐材を使用した「燃えない木材」を手掛け、燃えない防火ドアの販売を行っていましたが、平成19年に郡山市のビッグパレットふくしまで開催された新製品展示会に当社の防火ドアを出展した際、電気のいらない自動ドアの試作品に出会ったのですよ。
将来の高齢化社会に向けて在宅介護の需要が高まっている中、手を使わず車いすの方でも簡単に入ることが出来、しかも無電源で開閉する仕組みに大きな可能性を感じました。そこで早速、発明者に共同開発を提案し、当社の防火ドアを用いた製品の開発に取り組むことにしたんです。
ただ、試作品にはいくつかの問題点があり、例えば当時、踏み板の高さは10㌢あったのですが、これは特に女性ですとジェットコースターに乗っているかのように感じてしまう高さでした。そのため、いかに踏み板を低くするか工夫を重ね、最終的には高さを2㌢まで抑えることに成功しました。そして、そのほかの問題点も一つひとつ解決していきながら、21年に製品化することになったのです。
──発売当初の評判はいかがでしたでしたか?
橋本 「オートドアゼロ」はランニングコストが掛からず、シンプルな構造になっているため故障も少ない。また、電気を必要としないので停電時でも使えるし、手を使わないので衛生面にも優れています。しかし、正直、反応は鈍かった。展示会に行っても性能自体の評価は良かったものの、「停電なんてそうないから」と冷ややかな反応だったのです。そのため、発売してから2年間は4台ほどしか売れず、経営的にも大変な状況が続きましたね。
ただ、潮目が変わったのは震災後からでした。それまで見向きもされなかったのが、災害時、停電時でも使用出来ることや環境面に優れていることが注目され、震災前は2年間で4台だったのが、震災後から4年間で約130台販売することが出来たのです。いまでは商業施設や店舗、役所、病院、高齢者住宅、公共施設、工場、マンションなど幅広くに設置されており、山形市には毎年1台ずつ納入させて頂いています。また、大和ハウス工業㈱の奈良工場や大手ゼネコンなど、CSR(企業の社会的責任)の高まりから環境に優しい「オートドアゼロ」の需要は確実に高まってきています。
昨年には機能やメンテナンス性などを改良した新型の「オートドアゼロ」を開発し、手薄だった中国地方や九州にも進出を図っているところです。現在、自動ドアの国内生産台数は年間12万台あるのですが、「オートドアゼロ」の生産をそのうちの10㌫にしたいと考えています。近い目標としては、3年後までに1㌫に当たる1200台を目指してしており、そのうちの半分の600台は首都圏での販売を考えています。
■画期的な商品を手掛け、会津発の上場企業へ
──「オートドアゼロ」の値段は、電動式の自動ドアと比べていかがでしょうか?
橋本 いま「オートドアゼロ」の設置するまでの費用は、電動式自動ドアと比べて2割ほど高いのが現状です。大手企業では値段を見ただけで不採用になるケースも多く、そのためにも今後は更なるコスト削減を図り、電動式の自動ドアの水準まで下げたいと思います。
昨年12月末には、日本政策金融公庫の会津若松支店国民生活事業で資本制ローンの融資を受けました。この制度は革新的な技術・ノウハウを持ち、高い成長力が見込まれる中小企業・小規模事業者をサポートするもので、会津若松支店では2例目だそうです。我々のような、それこそ〝下町ロケット〟のように技術はあるけど財務が弱いベンチャー企業は、銀行から見向きもされませんでした。しかし、今回、日本政策金融公庫からお墨付きを頂いたわけですので、その意味でも今回の融資は非常に大きいですね。
──今後の展望を伺います。
橋本 現在、「オートドアゼロ」の踏み板の幅は60㌢ほどあるのですが、このサイズは一般家庭にはなかなか入りづらい。いまは事業所向けが多いのですが、踏み板の幅を10㌢ぐらいまで狭めるなど応用性を高め、将来的には一般家庭にも広めていきたいと思っています。また、当社のシステムは体重で開閉するため、20㌔を超えないと作動しません。もちろん、手動でも開くことは出来ますが、例えばショッピングセンターで荷物がない状態のカートを踏み板に乗せても反応しないのですね。こういった改良すべき点を一つひとつ解決していきたいと考えています。
また、海外での事業展開も目指しており、先日も台湾で営業を行ってきました。施工とメンテナンスが出来ないうちは海外進出は難しいですが、台湾では既に協力会社をつくることが出来、昨年6月に台北市に連絡所を設置しました。更には、ドイツやアメリカ、急成長を遂げているポーランドなどにも営業を図っており、新たな市場開拓にも力を入れているところです。
そのほか、「オートドアゼロ」とは別に、1月末から高効率のLED管の販売を開始しました。LED管の内部に高精度に反射する工夫をしており、このことで光の拡散力が上がり、より明るくムラなく照らすことに成功させました。現在、特許の申請中ですが、この商品も会社の主力にしていきたいですね。
「オートドアゼロ」については、2020年に開催する東京パラリンピックを見据えています。それまでにどれぐらいアピール出来るかが今後の課題です。創業当時から赤字の連続でしたが、諦めずに取り組んできたことがようやく花が開こうとしています。今後も会津の〝下町ロケット〟として、将来的には会津発の上場企業を目指していきたいですね。 (聞き手・斎藤 翔)
■橋本 保代表取締役略歴
昭和29年5月17日、郡山市生まれ。郡山商業高校を卒業後、渡辺パイプ㈱郡山営業所に入社。22年間勤めたあと、平成9年3月に㈱日伸を立ち上げ、13年に同社を設立した。現在、郡山市内で祖母、夫人、息子夫婦、孫2人と7人暮らし。趣味はゴルフ。
企業 DATA
創業:平成13年4月
所在地:会津若松市町北町大字上荒久田字宮下63
事業内容:木製建具の販売、LEDの販売
資本金:6,000万円
従業員数:8人
http://www.yuki-s.jp/
(財界ふくしま2016年3月号掲載)