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あの味この味 区切り

2017年12月8日

合名会社四家酒造店

地元志向の酒造りで
いわき市に地盤を築く

 

四家久央代表社員

 

■コスト重視から品質重視の酒造りへ

 

――まずは創業の経緯からお聞かせください。

 

四家 当社の創業は江戸時代、弘化2年(1845年)になります。もともとは農業の傍ら薬屋を営む家だったのですが、創業者の又兵衛が酒好きだったことが高じて酒造りを始め、当時、この地を治めていた磐城平藩の城下町で日本酒を販売していたそうです。ただ、昔は藩ごとに酒の値段を決められていましたが、いわきは藩領が入り組んだ土地柄だったため、磐城平藩の城下町にはほかの藩からの安い酒もたくさん入り、価格競争が激しく経営も大変だったと聞いています。

 

その後、戦前から昭和40年代に掛けては、炭鉱の景気に支えられながら市内全域に販売を拡げることが出来、売り上げは順調に伸びていきました。それこそ村ごとに酒屋があったぐらいで、我々酒蔵にとってはとてもいい時代だったんですね。しかし、炭鉱が閉山してしまうと、それまでメーンの消費者だった炭鉱従事者がいなくなってしまった。そのため、日本酒の需要も昭和40、50年代をピークにだんだんと減少し、市内の酒蔵は軒並み苦しい経営環境に置かれるようになったわけなんです。

 

――そこで代表銘柄「又兵衛」が登場するわけですね。

 

四家 当時は自分のところで造った日本酒を、大手メーカーの銘柄にして販売していました。もちろん、「福美」や「竹林」といった独自の銘柄はあったのですが、メーンは大手メーカーのブランド力を借りて地元で販売するという経営だったんです。

 

しかし、日本酒全体の消費落ち込みに伴い、大手メーカーからの受注も少なくなってくると、これまでの経営を変えていく必要が出てきた。そこで自分たちで独自のブランドを築こうと、30数年ほど前に販売を始めたのが「又兵衛」なんです。これは、大手メーカーに出していたコスト重視の日本酒から、品質重視の日本酒にシフトした最初の銘柄であり、発売直後からたちまちヒット商品となりました。また、いまでこそ当たり前になっていますが、当時、人の名前を冠した銘柄は珍しかったと思います。まさに初代・又兵衛の名前を掛けて勝負した銘柄だったんですね。

 

――その意味では「又兵衛」が出て以降、「四家酒造店」の名前が現在のように知られるようになったということでしょうか?

 

四家 そうですね。いままでは地元の酒蔵ながら大手メーカーの銘柄で飲まれていたわけですから、「又兵衛」以降は、特に市内において当社の認知度は一段と高まったと思います。また、「又兵衛」は故・三國連太郎さんや佐藤浩市さんをはじめ県外のファンも多く、いまでも当社を代表する銘柄となっています。

 

 

■新酒造りを年末商戦に間に合わせたい

 

――平成8年の全国新酒鑑評会では、その「又兵衛」で初めての金賞を受賞しました。

 

四家 我々のような浜通りの小さな酒蔵が受賞出来るとは思ってもみませんでしたので、正直驚きました。やはり一番は杜氏の皆さんの頑張りが大きく、品質重視にシフトした取り組みがようやく実ったのだとうれしかったでしたね。

 

また、もう一つ大きかったのが高品質清酒研究会だと思っています。今年の全国新酒鑑評会において5年連続で金賞受賞数1位を獲得するなど、いまでこそ本県の日本酒は有名になりましたが、県内では長年にわたって普通酒を中心に造る酒蔵が多かったこともあり、30年ぐらい前までは金賞が一つも獲れない年もあったんですよ。

 

そこで名倉山酒造㈱社長の松本健男さんらが中心となって平成7年に立ち上げたのが、吟醸酒醸造に関する技術の情報交換を行う高品質清酒研究会になります。ちょうど私も家業に戻ったころで、ここで酵母や火入れなどの勉強をしながら、翌8年に初めて金賞を頂くことが出来ました。それからも何度か金賞を頂き、今年5月の鑑評会でも金賞を受賞することが出来ました。

 

いわきは温暖な気候のため、もろみなどの温度管理が大変難しく、日本酒が造りづらい地域だといわれています。そういう地域でもいい酒を造れることを証明出来たことは、大きな意義があると思っています。

 

――昨年2月には初の純米吟醸酒となる「又兵衛 純米吟醸」を発売しました。

 

四家 当社の特徴は、地元の酒蔵として全体の9割以上が市内で消費されていることで、飲み口も地元のニーズに広く応えるため甘口から辛口まで幅広くそろえています。また、いまだ地元では吟醸酒より、さっぱりとした普通酒の飲み口が好まれる傾向にあり、普通酒と特定名称酒との割合は7・3となっています。

 

ただ、ご多分に漏れず地元でも純米酒志向の需要が高まってきているのは事実であり、その声に応えようと、このたび酒米に県産の「夢の香」を使用した純米吟醸を発売することにしました。透き通った味わいと香りの良さが特徴で熱燗にも適しており、お陰様で売り上げも上々です。いずれは、地元の人が贈答品として「又兵衛 純米吟醸」を選んでもらえるよう、今後も品質の向上に努めていきたいですね。

 

――最後に今後の抱負を伺います。

 

四家 純米酒や大吟醸酒といった特定名称酒の志向は今後も確実に高まっていくことが見込まれますので、行く行くはそちらの方に軸足を移していかなければなりません。ただし、あくまで当社は地元消費をメーンとしている酒蔵ですので、家庭の食卓に並ぶ普通酒についても、バランス良く取り組んでいく。今後もいわきに根差した酒造りを信条に、地元のニーズを見ながら柔軟に対応していきたいと考えています。

 

また、先ほども話した通り、この辺りは温暖な気候のため、ほかの地域と比べ新酒造りに遅れが生じています。例えば、会津では10月ぐらいから新酒が出来ている酒蔵もあるのですが、当社では早くても正月明けになってしまうため、どうしてもワンテンポ遅れてしまう。昨年には冷蔵タンクを導入しましたが、年内での販売を目指して徐々に環境を整えていきたいですね。(聞き手・斎藤 翔)

 

■四家久央代表社員略歴

昭和45年8月28日、いわき市生まれ。磐城高校から國學院大學文学部を卒業。平成5年に家業に入り、24年に現職に。現在、市内で母と2人暮らし。趣味は古文書を読むことで、公職ではいわき市文化財保護審議会で審議員を務める。

 

■企業 DATA

 

設立:弘化2年(1845年)

 

所在地:いわき市内郷高坂町中平14

 

事業内容:清酒の醸造・販売

 

資本金:300万円

 

従業員数:15人

 

(財界ふくしま2017年12月号掲載)


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