東京のIT企業が
奥会津で最先端ソフトを開発・販売
髙枝佳男代表取締役CEO&CTO
■奥会津でITの先端技術を開発する
――佐久間建設工業㈱(大沼郡三島町、佐久間源一郎社長)が、古民家再生事業に取り組み、今年6月に「清匠庵」を完成させました。同時に、これまで東京でIT事業を手掛けてきた御社の入居も決まり、地元も大歓迎だったと思います。いきさつをお願いします。
髙枝 佐久間建設では佐久間社長を筆頭に古民家再生事業に取り組んでいました。この清匠庵に入るきっかけは、私と日本IBMに勤務されていた堀田一芙氏とのかかわりから始まります。
堀田氏は「ITを含め産業が東京に一極集中し弊害が出ているので地方に分散する」といったプロジェクトに取り組んでいます。堀田氏が会津若松市に来た時、㈱栄町オサダ(会津若松市栄町、長田鄭子社長)とお知り合いになりました。長田社長も堀田氏の考え方に賛同し、オサダビル2階に「オフィス・コロボックル@会津」という共有の場を今年4月に作りました。そして、木造で造りたいということで、実績のある佐久間建設にお願いすることになりました。
その時、堀田氏が佐久間建設で古民家改装もしているという話に大変興味を持ち、雪をかき分けて見に行ったそうです。そこで堀田氏と佐久間社長が知り合い、堀田氏が佐久間社長に「住むだけの古民家ではそれで終わってしまいます。まず、仕事を持ってくる。その仕事を膨らませると雇用が生まれる。うまくいけば、二番手、三番手の会社も来てくれます。とにかく私が適当な会社を持ってくるので、よろしくお願いします」と話したそうです。
――髙枝代表と堀田氏のご関係は?
髙枝 ちょうどそのころ、当社(㈱創知)の技術を堀田氏に評価してもらうため私が会いに行きました。堀田氏はIT業界に限らず人脈が広く、ソフト関係も使いものになるかならないかの目利きも出来ます。その時に「奥会津の古民家でそれをやってみないか」と言われたのがきっかけです。
――それ以前はどちらに事務所を構えていましたか。
髙枝 東京都千代田区神田錦町にある「ちよだプラットフォームスクウェア」にいました。独立起業した平成18年当時はIT関連への投資が大きく裕福でしたので、赤坂、六本木、茗荷谷にもオフィスを構えていました。しかし、リーマンショックから投資もなくなり、同業他社同様に行き詰まっていきました。そこで、改めて当社(㈱toor)を立ち上げ、従来の軌道を大幅に修正することにしました。
経営理念は地道に儲けて人と人のつながりを大事にしていく。いまはそれの実践です。
■特許出願支援で実用化も
――具体的な業務内容は?
髙枝 最近出てきた言葉ですが「ビッグデータ」を“見える化”するというものです。
分かりやすくいうと、天気図がなかったころは、突然台風が来て、いったいいつ終わるのかが全く分からなかった。いまは測候所がたくさん出来、気象衛星もあるので、いつ台風が来て、どのあたりをどの程度の大きさで通過するかが分かります。天気図という技術によって、台風が見える化されるようになったわけです。
我々のソフトで、特許を見える化しました。膨大な特許を持っているオリンパス、ソニー、富士フイルムを例にします。オリンパスが持つ特許を青、ソニーを赤、富士フイルムを黄色で示して、各社の持っている特許の内容を画像技術や化合技術など様々な分野に分けていきます。すると、3色がはっきりと分かれます。これがビッグデータの見える化です。
色の強いところはその会社の得意分野で、内視鏡分野では青一色となり、オリンパスが強いことが分かります。逆に色のないところは、その会社にないものです。会社同士の強い部分と弱い部分がはっきり分かるので、例えば企業合併を想定した場合、理想的な合併の参考資料にもなります。従来の企業合併は、コンサルタントのアドバイスから経営者が好き嫌いで決めてしまうといったケースがほどんどでした。ところが、その会社にある特許、ない特許、合併予定先のものもビジュアル化しているので、有力な判断材料を当社は提供出来ます。
――これだけ見えてしまうと困るところもあるでしょう。
髙枝 見える化による付加価値はありますが、当然、見られると困る人も出てきます。他社にない技術として、先ほどのデータでいうと赤、青、黄が全くない空白の部分があります。そこは誰も特許を出していない領域です。
実は情報が何もないところが見えるのも当社技術の特徴です。ないものを表す技術は実はなかったのです。ないものが分かると、次に特許を出願する時も、誰も出していない分野で新しい特許を出願することが可能になります。
――これまでの実績は?
髙枝 サイバネットシステム㈱という会社で先ほど説明した特許を見える化した当社技術が使われ、特許出願を予定している企業が月5万円で利用出来るようになっています。利用が増えれば当社に決められた割合のお金が入ってくるようになっています。また、見える化の技術は言語に縛られないので、世界中の人が利用することが出来ます。当社技術はインターネット上にあるので、私が会津の三島町にいても、世界中どこからでも見ることが出来ます。これが強みです。
――将来的なお考えをお願いします。
髙枝 会社が潤い、他社も来るようになったら、シリコンバレーのアップル村、グーグル村と同じようなもの。toorという社名なので、ここに当社はtoor村を作ってみたいです。というのも、地元の人に本当に大切にしてもらっています。佐久間社長にマチ中の人を紹介してもらったり、近所の農家の方にご飯をごちそうしてもらったり大変ありがたいと思っています。近所の方もほとんど自給自足ですので、生活力も高く災害にも強いでしょう。頑張って仕事をして地域も良くしていきたいと思います。 (聞き手・磯貝 太)
髙枝佳男代表取締役CEO&CTO略歴
昭和41年8月4日、石川県加賀市生まれ。京都大学物理学部を卒業し同大大学院博士課程修了後、平成7年に東燃化学㈱に入社した。10年に㈱三菱総合研究所主任研究員、18年に独立して㈱創知を設立した。その後、24年に同社を立ち上げ、東京都から大沼郡三島町に拠点を移した。工学博士。趣味は音楽、読書。
■企業 DATA
創業:平成24年1月27日
所在地:大沼郡三島町大字早戸字居平541
事業内容:ビッグデータ解析ソフトの製造・販売
資本金:700万円
社員数:3人
(財界ふくしま2013年11月号掲載)