造園業の原点である
‟庭造り”に特化する
山岸正明代表取締役
■高い専門性とセンスが求められる庭造り
――まずは業務内容からお聞かせください。
山岸 当社は造園を営む専門業者として、今年で創業35周年を迎えました。これまで会津を拠点に、伝統的な技術、最新の施工方法をもって「四季折々の調和」と「10年、20年先の景観」を目指した施工を手掛け、現在は個人宅の庭造りと、公園や学校、街路樹等の造園工事、植栽管理をはじめとする公共の仕事を両輪としています。
――創業の経緯は?
山岸 会社を設立したのは昭和57年。高校を卒業後、浪人生だった時にたまたま都内の造園会社でアルバイトをしたことがきっかけでした。当時は特に造園業に興味があったわけでなく、単なる生活費を稼ぐために始めたのですが、生活空間をつくることが出来る造園の仕事にたちまち魅力を感じるようになり、自分の目指す造園会社をつくろうと、地元に戻っていまの会社を立ち上げたんです。もちろん設立当時は実績もありませんでしたから、公共工事を請け負うことは出来ませんでした。ですから、最初のうちは個人のお客様のみを相手に仕事を回していたのですが、施工したお客様からの紹介を通じて徐々に依頼も増えていき、順調に業績を伸ばしていくことが出来ましたね。
その後、公共工事にも携われるようになったわけですけど、これまで手掛けてきた庭造りから軸足を移すことはありませんでした。正直な話、採算性だけを考えると公共工事の方が仕事としてはいいのですが、造園の原点といえる、より専門性とセンスが求められる庭造りに強いこだわりを持っていたためです。
現在、庭木の剪定作業はやっても、当社のように竹垣や石垣、敷石きなどを通して庭全体のデザインと施工を手掛けているところは、会津でもそう多くないと思います。それだけに、庭造りの施工に特化していることは、当社の大きな強みだと考えています。
――震災後、除染をはじめとする復興事業があった中でも、それまでの庭造りを軸にした経営方針を変えることはなかったそうですね。
山岸 以前、除染関連の芝生の張り替え作業に携わったことはありましたが、自ら積極的に仕事を取るようなことはありませんでしたね。理由は、一時的にも復興事業に軸を置いてしまうことに、将来的な不安を感じたからなんですよ。
震災から6年が経ち、ここに来て復興事業が落ち着きを見せてきた中、それらをメーンとしていたところでは、現在、新たな受注確保への対応が迫られているのが実情です。かといって、復興以外の公共事業の見通しについても、私はそう明るくないと考えています。特に人口減少が進む地方においては、当然ながら公共物の新規施工の件数は減っていきますから、小さなパイを奪う形で今後更なる競争激化が予想されるからです。
これは、既存の植栽管理についても同様だと思います。新しく公園を整備しても、その後も維持管理する費用が継続的に発生しますよね。ですから、例えば年間の剪定の回数を減らしたり、もしくは植林の数を少なくしたりと、今後行政としても管理費の縮減により一層取り組んでいくことでしょう。
そうなると、公共工事が少なくなった分、個人宅の施工の比重は高まっていきます。ただ、庭造りの分野は高い専門性とセンスが求められるものであり、これは一朝一夕で始められるわけではないですし、仮に一時的にも休んでしまえば技術はすぐ錆びれてしまう。もちろん公共の仕事も大切ですけど、私が震災後もあくまで庭造りに軸を置いてきたのは、そういう理由があったからでした。
造園業における市場が縮小傾向にある中、今後は専門性をより一層高め、ほかとの差別化を図らなければ、特に我々のような小さいところではこの業界で生き残っていけない。私は、技術力の差が明確に反映される庭造りのノウハウこそが、ほかとの差別化が出来る最大の武器だと考えているんです。
■一軒の利益率は下がりながらも維持管理数だけは増加
――現在、個人の顧客についてはどのようなニーズが多いのでしょうか?
山岸 最近では、夏場の草刈りや剪定作業を少なくして欲しいなど、なるべく手間と管理費用が掛からない庭を望まれる方が増えています。また、核家族化が進んでたことで、特に若い世帯を中心に新築住宅の坪数が小さくなっており、それに伴い庭の規模も縮小しているんです。このように、公共工事と同じく個人のお客様についても、全体として庭に掛かる造園費用を抑える傾向になってきています。
つまり、一軒一軒における施工の利益率は下がってきているわけですが、その一方、個人で剪定作業が出来る方が少なくなってきたためか、庭の年間維持管理の依頼自体の数は増えているんですよ。そのため、いかに効率良く、かつ採算ベースに見合った形で仕事を受注していくのかが、今後の課題だと感じています。
そのほか、当社では業界内でも一早くホームページを立ち上げ、ここを見て依頼してくる方も増えてきています。やはり個人のお客様にとっては、実物を見なければイメージも沸きづらいですから、今後もこういったメディアも活用しながら営業に力を入れていきたいですね。
――今後の展望・課題についてお願いします。
山岸 技術力の向上と伝承を守っていくためには、若い人材の確保と育成がカギとなります。
当社では、従業員一人ひとりが社長であると意識してもらうよう、トップへの許可ごとをなるべく排除するなど、従業員に大きな裁量権を与えるようにしています。加えて、書類のペーパーレス化や事務作業の効率化を進めており、本業にそのリソースを十二分に充てられるよう努めているところです。
それぞれが責任感を持って自発的に動いていく。大きな変化の時を迎えている中、どのような事態にも対応出来る人材を育てていかなければならないと考えています。 (聞き手・斎藤 翔)
■山岸正明代表取締役略歴
昭和27年3月20日、会津若松市生まれ。会津高校を卒業後、東京都の造園会社でアルバイト経験し、帰郷後、市内の同業他社で3年間修業した後、57年6月に同社を設立した。現在、夫人と1女と3人暮らし。趣味はジャズ鑑賞。
■企業 DATA
設立:昭和57年6月
所在地:会津若松市石堂町9-43
事業内容:造園工事・土木工事・とび土工・石工事・樹木草花販売・緑化資材販売
資本金:2,000万円
従業員数:8人
http://www.aizusouen.sakura.ne.jp/
(財界ふくしま2017年7月号掲載)