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あの味この味 区切り

2015年4月1日

株式会社シンテック

 

震災を乗り越え医療機器産業分野に挑戦

 

赤津和三 代表取締役社長

 

■電子機器の技術で医療機器に挑戦

 

――まずは創業の経緯から伺います。

 

赤津 私は㈱日立製作所の小田原工場で業務用電算機の記憶装置の開発にかかわっていたのですが、いずれは自分だけの城を築きたいという気持ちがあり、平成8年に故郷のいわき市勿来町に創業しました。「シンテック」の名の由来は「シンクロナス」と「テクニック」から来ていまして、時代に合った技術を駆使して新しい製品を作りたいという思いが込められています。

 

創業後は電子機器事業において高性能電波腕時計用アンテナの開発に取り組み、16年には国内大手時計メーカーより発売することになりました。ただ、その当時は製品を開発しても、私たち独自のノウハウで開発しているものだったので、特許を取っていなかったんですね。開発当初は新しい技術ということでメーカーからたくさんの注文書が送られてきたのですが、ある程度の時期になるとキャンセルの申し込みが多発していきました。

 

なぜかというと、当時、私たちはある大手の企業と共同開発で事業を進めていたのですが、そこは資金力でもマンパワーでも私たちとは桁違いの会社でした。あとで分かったんですが、その会社でもアンテナの開発に成功し、海外に製造体制を整えていたこともあって、約1年半で私たちへの受注がゼロになりました。

 

大手の会社は技術力もありますから、うちのアンテナを見れば製品のノウハウは分かりますし、生産力も私たちのような中小企業とは比較になりませんから、こうなるともうどうしようもありません。その時に特許の重要性を認識しましたね。

 

――ただ、そこで培ったアンテナ用表面処理技術が医療機器分野へ挑戦する足掛かりになりました。

 

赤津 当時、電波時計用のアンテナと並行して、携帯電話用のアンテナも開発していたのですが、そちらの取引先の方から医療機器分野の誘いがあったんです。従来の歯科矯正のワイヤーはチタンとニッケルの合成金属で出来ており、金属的な部分が目立っていました。私たちはアンテナ関係で独自の加工技術を持っていましたから、それを用いて歯の色と同化するようなワイヤーを作ることが出来ないかと言われたんです。医療機器産業は安定性のある分野なので前から興味がありましたし、電波時計の反省もあって携帯電話のアンテナ加工では特許を取っていたので、新事業への挑戦を決めました。電子機器から医療機器と全く別分野への挑戦なんですが、怖いもの知らずだったので、同じ表面加工の技術なら大丈夫だろうと軽く考えていましたね。

 

まず最初の壁となったのが難関の第1種医療機器製造販売業許可(ISO13485)の取得で、これは県の薬務課や薬事コンサルタントに相談し指導を受けて何とか資格を取得することが出来ました。ただ、そのあとが大変で、医療機器も電子機器と同じように条件設定をして県の担当部局で審査をするんですが、人体にかかわるものなのでいかなる条件でも安全性が求められます。組み立て・材料・検査方式などあらゆる場面で細かい条件付けがあり、そのすべてを文書でデータ化しておかなければなりませんでした。それでも体内固定用のケーブルや歯列矯正ワイヤーを開発しましたが、完成までは膨大な実証と裏付けが必要となり、本当に苦労の連続でしたね。

 

■新工場建設で故郷の産業復興を

 

――25年には資格を取得し医療機器の研究開発に着手しましたが、新規参入を検討していた時期に東日本大震災が発生し、製造設備が損壊する被害を受けることになりました。

 

赤津 私は農業もやっていたのですが、田んぼや家はすべて津波で流されました。かろうじて工場は助かったのですが、地震で設備が壊れたり建物が傾くなど大きな被害を受けました。震災直後は物流・インフラが全部止まってしまって、水も電気もガソリンも食べ物も何もない状態でしたね。水は昔の知り合いが小田原の水道局にいたので、そこから支援してもらったり、食べ物は炊き出しで何とかしのいでいました。田んぼの米も全部流されてしまい、食べ物の確保にも苦労する日々で、人生にこんなことがあるのかと思い知らされました。

 

――それでも震災から2カ月後には工場を再開し、現在は新工場の建設も進めています。

 

赤津 震災後も医療機器の研究開発を継続して、現在、いわき市錦町に1050坪の土地を確保し生産拠点となる工場の建造を進めています。経済産業省の先端技術実証・評価設備整備費等補助金などに採択されたこともあり、半分負担の形にはなるのですが資金面は見通しがついてきました。現在は機材などを集めている状況ですね。ただ、建設業者の人で不足や資材の高騰の影響もあって、当初のスケジュールより遅れているのは確かです。

 

一番のネックとなるのは工場で働く人材の確保です。除染関係に人手が動いていることもあってなかなか人手が集まりません。新工場は雇用の創出にも貢献したいと思っているのですが、いままで通りの募集ではなかなか難しいでしょうね。現在、考えているのが60歳以上の高齢者の方をターゲットにした人材募集のシステムです。いわき市にも全国的な製造メーカーがあり、定年で引退された技術職の方が大勢いらっしゃいますが、中身は変わってもモノづくりの形は一緒なんですね。医療機器分野とマッチングするような技術を持った大手の会社もありますし、生涯現役社会の実現とまではいいませんが高齢者の方が働ける職場づくりを進めていかなければなりません。

 

また、技術のある人材の確保ももちろんですが、同時にいわき市を担う若者を育てることも重要です。この近くには工業高校がありますが、今年は無理にしても来年には声を掛けていきたいと思っています。どんな年齢の方でも働ける地元の会社として認知されていきたいと思っていますし、そのためには早期の新工場の完成が不可欠です。まずは医療機器産業の研究・開発を継続し、新工場を完成させて、行く行くは故郷・いわき市の産業復興に貢献していきたいですね。  (聞き手・丹野 育)

 

企業 DATA

 

設立:平成8年4月

 

所在地:いわき市植田町南町1-3-2

 

事業内容:電子機器・医療機器の製造及び開発

 

資本金:1,000万円

 

従業員:11人

 

http://www.syntec-jp.co.jp/

 

 

(財界ふくしま2015年4月号掲載)

 

 

 

 


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