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あの味この味 区切り

2014年8月1日

株式会社磐城高箸

間伐材を活用した高級割り箸で
林業と地域を再生する

 

髙橋正行代表取締役

 

■割り箸の可能性に賭け起業を決意

 

――平成22年8月に創業した新しい会社ですが、創業のきっかけは?

 

髙橋 私の祖父がいわき南部の造林会社で役員を務めており、父も監査役をしていた縁もあり、22年の春ごろからいわき市の山林の管理にかかわることになったんです。実際に山に入って木こりをやっていたのですが、そこで林業の衰退の実情を目の当たりにしました。

 

本来なら山主は木を間引き、山を間伐することで景観を保持したり、水源を管理したりと山林を管理するものです。でも、私が山に入った当時は切った間伐材が木材市場で値段が付かず、山主もお金にならないので間伐をしなくなり森林が荒廃している有様でした。

 

1円でも高く間伐材を売れるようにするため、既存の事業とは一線を画した新規の事業を立ち上げなければならないと思いました。ただ、付加価値の高い製品を、地域で一貫製造し、直接販売することを事業戦略に決めてはいたんですが、肝心の何を売るかが決まらなかったんです。間伐材を利用した釘や基礎の製造などいろいろ考えたのですが、参入している業者が多く、新規参入では勝つのも難しい。そんなこともあって悩んでいた矢先に、森林ジャーナリストの田中淳夫さんの著作で『割り箸はもったいない?』(ちくま新書)という本に出会ったんです。

 

本の中で、森林破壊の象徴とされてきた割り箸が、実は非常にエコロジーな製法で製造されており、環境破壊とは無縁の存在だと書かれていました。感銘を受けると同時に、割り箸を製品とした場合、1立米当たりのの単価が製材の何倍にもなることも分かったんです。早速、田中さんにメールでコンタクトを取り、講演会などにも参加して交流を深めていきました。その中で、割り箸が日本発祥であり、杉が最高級品であることと、海外には杉がないため輸入業者との競争がないことを知り、改めて割り箸に可能性を見出すことになったんです。

 

いわき市には良質の杉がごまんとあり、杉材の風合いや色合いを生かすため丸太から一貫生産し、断面に丸みのある利休箸を柱とした事業を創業することに決めました。利休箸は割り箸の中での最高級品で、現在、生産している業者は私たちを含めて全国に2社しかありません。専用の機械を導入し、何度も試験製造を重ねて、ようやく23年の2月には純いわき産杉の割り箸の製品化に目途が立つことにもなりました。

 

■震災と風評に負けない“希望のかけ箸”

 

 

――その直後に東日本大震災が発生し、特に川部町は湯ノ岳断層を震源とした余震の直撃を受けるなど影響は大きかったと伺っています。

 

髙橋 口約束ではあったんですが、月10万膳単位の契約も決まっていて、本当にこれからという時でした。結局震災で契約も流れてしまい、3週間近く断水し、停電も続きました。4月の上旬には、湯ノ岳断層を震源とした余震によって製造の要である帯鋸の機械も壊れ、原発事故も深刻化する一方で本当にきつい状況でしたね。私の親戚・知人は関東圏に住んでいたこともあり、事業所を移転してくれとか涙ながらに言われることもありました。震災があったのは会社の1期目の年だったこともあって、東電の補償も受けられず、一時は廃業も覚悟しました。

 

何とか営業を再開したのは5月に入ってからなんですが、その時、震災ボランティアの「EAT EAST!」が福岡からバスを乗り継ぎ、手弁当でいわき市まで来てくれたんです。デザイナーの支援団体なんですが、裸箸3000膳を買い上げて、被災地支援のメッセージを込めた割り箸袋をデザインして販売し、売り上げを寄付していきました。苦しい時期にあって、再出発の背中を押してもらいありがたかったですね。

 

震災後はどうしても地元の被害ばかりに目が向いていたんですが、彼らと話すうちに今回の震災は点ではなく、面の被害だと気付かされました。それなら被災3県みんなが元気になれるよう、3県の杉産地の間伐材を使った本物の割り箸を作ろうと思い立ったんです。気仙杉の産地である岩手の陸前高田は津波による甚大な被害があり、栗駒杉の産地である宮城県栗原市は、大震災の本震で震度7を記録し、過去にも直下型の大地震に見舞われた土地です。そしていわき市は津波の被害と原発事故に端を発するひどい風評があります。この3県の杉材を使った割り箸のアイデアをEAT EAST!に話した時、間伐材利用コンクールの存在を知り、締め切り間近にエントリーすることになりました。

 

彼らの協力もあってデザインされた割り箸は「三県復興希望のかけ箸」と名付けられ、平成23年の間伐材推進中央審議会の会長賞を受賞することが出来ました。売り上げのうち150円を義捐金とし、それぞれ50円を各都市に直接寄付し、私たちも新たな一歩を踏み出すことが出来たんです。

 

――「希望のかけ橋」は25年度にはグッドデザイン賞を、26年度にはソーシャルプロダクツアワードを本県から大七酒造㈱ととも受賞するなど、磐城高箸の名前を全国に知らしめることにもなりました。

 

髙橋 この「希望のかけ箸」は地域再生だけなく、森林再生への思いも込められています。国内における杉の丸太の市場価格(1立米)は80年代の3万5000円をピークに下がり続け、平成24年には8000円台にまで落ち込みました。現在は円安の影響で木材が高騰し、ある程度まで回復はしていますが、原木市場での落札価格から2割の流通マージンが引かれてしまうので、輸送費なども含めると林業家は赤字になってしまいます。私たちは輸送の掛からない地元で操業していますし、仕入れ値を市場の落札価格の3割増しにしています。間伐には自治体から伐採費用の7~8割の助成金が交付されていますが、それでも経営が成り立たないのは、材木が捨て値同然で取り引きされており、その流れを止める一助になればとの思いも割り箸には込めています。割り箸作りは小さな試みですが、50年、100年後の山林のあり方を考え直す契機にもなります。川下から少しずつ林業を立て直していきたいですね。(聞き手・丹野 育)

 

■髙橋正行代表取締役略歴

 

昭和48年11月6日、神奈川県横須賀市生まれ。日本大学付属高校卒業後、日本大学法学部に進学。平成22年に祖父の故郷であるいわき市にIターンし同社を設立。23年には「3県復興希望のかけ箸」で、間伐・間伐材利用コンクール会長賞を、25年にはグッドデザイン賞を、26年にはソーシャルプロダクツアワードをそれぞれ受賞。現在はいわき市錦町に一人暮らし。趣味はサッカー。

 

■企業 DATA

 

設立:平成22年8月

 

所在地:いわき市川部町川原2

 

事業内容:純いわき産杉割箸製造・販売

 

資本金:990万円

 

業員数:7人

 

http://iwaki-takahashi.biz/

 

(財界ふくしま2014年8月号掲載)


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