「在庫主義」と「機動力」で大震災復興に貢献
安藤東榮代表取締役社長
■卸業の原点をぶれずに貫く
──会社設立の経緯から。
安藤 陸軍の軍人だった父の赴任先の群馬県高崎市で生まれ、戦後は父の実家である田村市船引町に
引き揚げ、食べる米もないようなつらい生活を送りました。そこで「何としても成功したい」という
気持ちが芽生えたんですね。高校を卒業して、埼玉県の自動車部品製造業・大橋機産㈱に就職しまし
た。就職2年目からは会社の推薦で夜間の産業能率短大に入学し、途中の上野駅で流れていた井沢八
郎「ああ上野駅」の歌詞と自分の境遇を重ねながら、毎日片道1時間30分掛けて通いましたね。短大
卒業後、親元に近い郡山市に戻り、建材資材工場で営業などを担当しました。10年勤めて、32歳で独
立し、須賀川市で釘、針金、建設ボルトなどの卸業を始めました。昭和50年当時はオイルショックの
時期で、地盤も何もないところから、徒手空拳でのスタートでした。懸命に営業して業績を伸ばし、
3年目で現在の郡山市中央工業団地に進出しました。
私は常に「自分で変革しなければ、必ず会社は淘汰される」と言っています。そういう危機感を常
に持っているんですね。次のニーズは何だろうなと考え、平成2年に一側足場のリース業、13年に地
盤改良工事業も始めました。更に16年には環境部を新設して、太陽光発電設備の取り扱いを開始しま
した。
──御社のモットーは「在庫主義」と「機動力」だそうですが、東日本大震災発生時にはどんな対応
が出来ましたか。
安藤 同業他社の皆さんは、在庫を持っていないですからね。当社は建設資材の在庫と、配送車を持
っていますから、燃料がなくて10日間ぐらい苦労しましたが、1カ月ぐらいは皆さんに本当に頼りに
されましたね。目指してきた方向が間違いじゃなかったなと思いましたね。皆さん在庫を圧縮して、
まして景気がずっと低迷していますから、在庫を負担したくない。在庫するということは、場所も倉
庫も必要ですからね。在庫があれば今度は車が必要になってくるでしょう。今回の震災では、在庫主
義と機動力は、何がしか皆さんに貢献出来たと思いますね。
──どういう思いから、このモットーを掲げたのでしょうか。
安藤 我々、地場の問屋というのは、物があって初めて販売店やエンドユーザーから頼りにされるわ
けです。物を持っていないと、すぐ欲しいお客さんに対応出来ないですよ。売れ行きが悪いからとだ
んだん在庫を圧縮して、人を減らして、車もメーカーなどから直送してもらうことにして、売り上げ
だけを…という感じになりがちですが、もともと問屋業とは、物があって初めて問屋ですよね。
いまはそうではなく、効率化ばかりがまかり通っていましたからね。震災になったら交通網はずた
ずただし、物は入ってこない。ましてやコンパネの工場なども津波や火事で被害を受けて供給出来な
い。うちは1カ月以上分ぐらいの在庫を持っていました。当社も燃料がない中でしたから、1週間ぐ
らいは本当に困ったお客さんは、直接取りに来られましたね。
時代に逆行している部分もあると思うんですね。だけど、問屋業の原点である在庫がなくては、機
能を果たせない。
建築資材は重くてかさ張るようなものが多いじゃないですか。でも、これがなかったら家一軒造れ
ないし、橋も造れない、公共物も造れない。当社だけですべて賄えるほどの物を持っているわけでは
ないですが、改めて原点に戻った泥臭い商売をしていて良かったなと思います。
■異業種「野菜ジャム」に挑戦
──更に、手作りの野菜ジャムなどを手掛ける農産部「笑顔がはずむしぜんのこころ」を始めました
ね。
安藤 田村高校の同窓生である小泉武夫先生(東京農業大学名誉教授)の講演を聞いたりして、先生
は盛んに食の6次産業化と話されるんですね。1次産業は農業などの生産、2次が加工業、3次が流
通。それらを融合して1+2+3で6だと言うんですね。また、福島県は放置された耕作地が全国で
一番多いと知りました。埼玉県の面積に匹敵するぐらいの耕作放棄地があるそうなんです。何とかこ
れをお手伝い出来ないかなと思いまして、畑を借り、一昨年からニンジンを作り出したんですよ。そ
うしたら、抜いたニンジンが二股とか三股なんですよ。素人がやっているし、放置されていた畑だっ
たものでうまくいかなくて、苦労して作ったものが売れない。しかし、見た目は悪くても味は全く変
わらないわけですから、何とかならないかと。ある日、夜中の2時ごろ目がさめて、女房(キミ子専
務)を起こして「ジャム作れ」と言ったんですよ。全く素人で、女房もジャムなど作ったことないで
すからね、「何、唐突に」と言われてましたがね。(笑)
いろいろ試行錯誤して、小泉先生などにも「自然のものを作らないとダメだよ」とアドバイスを頂
きながら、ジャムでも野菜のジャムってあまりないですよね。添加物もほとんど使っていません。ど
んどんアイデアが出てきて、ニンジン、トマト、カボチャ、枝豆、ゆず、しょうがの6種類を作って
います。ふくしま産業応援ファンド事業の助成金の対象事業にもなりました。現在は女房と嫁に行っ
た娘ぐらいで作っていますから、1日に200本程度なのですが、意外とブレークする予感があるん
です。また、小泉先生命名の「合香漬け」といった漬物も作っています。自信満々なんですが、売り
先が分からないんですよ。(笑)
──今後の展望を。
安藤 いま扱って頂いているのは、うすい百貨店とコラッセ福島の物産館だけなのですが、ようやく
水戸と栃木の県外のデパートが置いてくれそうなんです。500日でモノにならなかったら撤収だと
言っているのですが、我々はこれまで業者を相手に無機質な資材を売っていたじゃないですか。こう
いうものは、「よく俺たちの素材をここまで引き出してくれたな」とか、食材が言ってくれそうな夢
がありますね。
苦労は大変ですが、「おいしかったね」「まずかったね」「高いね」と、最終的にはエンドユーザ
ー相手の商売をやってみたいなと思っています。
(聞き手・渡辺利彦)
安藤東榮代表取締役社長略歴
昭和17年4月3日、群馬県高崎市生まれ。田村高校を卒業後、埼玉県で自動車部品製造業に就職。帰郷後、郡山市の建材資材工場に勤務し、50年に独立して同社を創業。
企業 DATA
設立:昭和50年11月
所在地:郡山市田村町上行合字北川田33-4
事業内容:建設・土木資材卸、一側足場リース、地
盤改良工事、太陽光発電設備設置
資本金:5,000万円
従業員:30人
http://www.touei-ind.co.jp/
(財界ふくしま2012年6月号掲載)