組立型ERをはじめ災害対策製品を開発
段ボール界のエキスパート
神田雅彦代表取締役
■設計・印刷における高い技術
──貴社の事業内容を。
神田 当社は、外装用段ボールの製造・販売をメーンに取り扱っています。これらは、お客様から寸法や印刷などのすべてをオーダー頂いて受注生産しています。商圏は半径100㌔㍍であり、取引先は隣県にまで及び、機械などの部品製造や農産物の販売を取り扱っているお客様が特に多いです。
──経営理念について伺います。
神田 「顧客に信頼される商品の提案・提供をし、知議・知恵を活かし、社業の発展と全従業員の物心の幸福を追求すると共に社会に貢献する」を経営理念とし、「信用と品質」「継続は力なり」を社是に掲げています。経営理念にある「社会に貢献する」を特に推進していますが、自分たちが不幸では社会に貢献出来ないとの思いから、まずは従業員が幸せを感じられる会社を目指しています。
──環境理念も掲げられています。
神田 当社は環境ISOを取得しており、地球環境保護が最重要問題であること、また、当社の製品と事業活動が環境と深く関係していることを認識し、地域の自然環境との調和と共生を基本理念として、事業活動のあらゆる面で環境の保全に配慮した活動を進めています。特に、過剰包装とならない適切な包装形態の提案に力を入れています。
──明治30年創業と、100年以上の歴史ある老舗企業です。
神田 創業当時は、須賀川市内で木材商として開業し、購入した材木を製材して販売をするうち、製材の過程で発生した端切れを利用した木箱を製造しました。明治43年には専売局須賀川分工場のたばこ製造開始と同時に、木箱の納入を開始し、昭和35年ごろには、木箱から段ボールに変わり、以来、段ボールの製造・販売を手掛けています。
一般的なオフセット印刷とは違い、段ボールに直接、パッケージなどを印刷しています。直接印刷では難しいとされる細部まできれいに印刷することが可能で、高い印刷技術の向上に取り組み、同業他社との差別化を図り、当社の製品ならではの付加価値を付けています。
また、中でも当社は、緩衝材や外装段ボールの設計をはじめ包装設計を得意としております。緩衝材においては、以前は加工のしやすい発泡スチロールが主流でしたが、昨今では社会的な環境への配慮が進んだことから、紙製の緩衝材が普及してきました。緩衝材を設計する技術は各社様々ですが、当社の技術はお客様の細かい注文にまで対応出来る設計技術がありますので、大変好評で、感謝状も頂いております。
──ER(救命救急室)など、災害時における避難所などで使用される段ボール製の災害対策製品も手掛けられていますね。
神田 ERのほかには、ロッカーや下駄箱、テーブル、棚などがありますが、これらに使用される段ボールは、外装用段ボールと構造が違います。軽さと強さの両立を目指して航空産業の中で発展を見せたハニカム構造を、紙でつくることにより、更に軽く、環境に優しいペーパーハニカムダンボールというものがあるのですが、当社では更に、ハニカムダンボールをマテリアルと考え、いままで主に梱包資材としてでしか使用していなかったハニカムダンボールを様々な製品に開発、生産を行うべく当社にてネーミングした材料である「ハニリアルボード」を使用しています。
ハニリアルボード製ERは、軽量であり、遮断性に優れ、組み立てに工具が不要、収納性に優れ、廃棄が容易であり、コスト優位性といった特徴があります。
──組立型ER誕生のきっかけは?
神田 東日本大震災後、福島県のふくしま医療福祉機器開発事業のサブテーマに「移動型ER」の項目があり、当社でも開発が出来るのではないかと思い、申請したところ採択され、平成26年度より3年間開発を進めました。既に、災害時に使用可能な製品化を実現し、販売を開始しています。これまで、災害時などにおける物資調達などに関する協定を、須賀川市、郡山市、福島県、天栄村と締結しており、今後も地域社会に貢献する活動を進めていきたいと思います。
海外需要もある組立型ER
──組立型ERは、熊本地震の際に避難所で使用されました。
神田 避難生活が続く環境下で感染症が発生した場合に、ほかの避難者への感染を防止するために、組立型ERの中で治療が受けられるように設置されました。また、使用されていない時には、更衣室や授乳室としても利用されました。これまでに福島県立医大の感染症対策ユニット、災害派遣医療チームの訓練機材、国際感染症センターでの感染症訓練機材などでも使用されています。
──昨年11月には、ドイツで開かれた世界最大級の医療展示会COMPAMED2016において、組立型ERの海外初出展を果たされました。
神田 初の海外出展ということで非常に心配はありましたが、実際に展示をしたところ、多くの方に興味を持って頂き、特に中東やアフリカの医療関係者からは、診察室が十分に整備されていない背景もあって、診察室として使用したいといった声も頂きました。初の海外出展でしたが、国内よりも海外の方が需要が多いのかなと感じました。
また、現在はドイツの医療関連企業2社から、ドイツで販売したいといった声も頂いているところです。具体的な話についてはこれからですが、今後、組立型ERが徐々に海外でも広がっていくことに、手応えを感じているところです。
段ボールの製造をメーンとしていますが、従業員は実際に自分たちがつくった製品が社会で、どのように役立っているのかを実感しづらいといったところがありました。そういった中、ERをはじめとした災害時などで使用される製品が、社会に貢献していることで、従業員が自分たちの仕事に誇りが持てる会社になっていければいいですね。最終的には、当社で働いて良かったと思える会社を目指していきたいと思っています。(聞き手・作間信裕)
■神田雅彦代表取締役略歴
昭和35年10月14日、須賀川市生まれ。須賀川高校、東京スクール・オブ・ビジネス経営学科を卒業し、57年に家業である同社に入社。専務や常務を経て、平成9年に現職へ就任。公職では、(公社)須賀川労働基準協会副会長、横山工業団地共栄会長、須賀川商工会議所議員などを務める。現在は須賀川市内で夫人と2人暮らし。趣味はスポーツ観戦。
■企業 DATA
創業:明治30年2月
所在地:須賀川市館取町22
事業内容:段ボールケース及び段ボール製品の開発・製造販売
資本金:2,160万円
従業員数:54人
(財界ふくしま2017年6月号掲載)