本物志向の果物とシードルで
日本一を目指していく
加藤修一代表取締役
■こだわりの農法で“吟壌”ブランドを確立
――フルーツファームカトウで生産する「吟壌」ブランドの果物は、全国に多くのファンを持つ人気商品となっていますね。
加藤 吟壌の〝壌〟とは土壌の〝壌〟という意味で、商標登録も行っている当園独自のブランドです。土壌が良くなければ品質の高い果物はつくれないというコンセプトの下、長年にわたり化学肥料を使わず有機肥料のみで作物と土壌を育てる「酵素農法」にこだわり、いまから8年ほど前にこの「吟壌」ブランドを立ち上げました。現在は栽培するサクランボ、桃、リンゴに、それぞれ「吟壌さくらんぼ」「吟壌桃」「吟壌りんご」と名付け、贈答品として県内はもとより全国のお客様に販売させて頂いているところです。
「吟壌」の一番の特色は、味が濃く、甘みと酸味のバランスが優れている点ですね。甘みがあると言っても決して人工的なものではなく、柔らかく、さわやかな自然の甘みが表現出来ています。また、食感も非常に大事にしており、当園のリンゴは固くも柔らかくもなく、水分がはじけるような後味の良い食感になっています。
果樹栽培において基本となるのはやはり土壌です。当園では、生きた土壌をつくるため化学肥料は一切使用せず、魚粉や米ぬか、カニガラ、海藻などを発酵させたボカシ肥料と呼ばれる有機肥料を使用してきました。このことで果物が持っているポテンシャルを最大限引き出すことが出来、中でもリンゴに関しては、ほかには負けない日本一のレベルにあると自信を持って言える商品となっています。
――化学肥料を使わない農法に取り組むようになったきっかけは?
加藤 私は福島市大笹生の果樹農家の長男に生まれ、大学卒業後、家業を継ぐため戻ってきたのが、いまから30年ほど前になります。ちょうどそのころは、宅急便を利用した果物の贈答品が盛んになってきた時で、当時においても贈答品で売るのとJA出荷とでは3分の1か4分の1ぐらい単価が違っていました。しかし、私の父はそういった贈答品には手を出さず、昔ながらのJA出荷一本でやっていたんです。ですから、私が家業を継いだ時はもちろん贈答品はゼロでしたし、いざ始めようにも既に市場は飽和状態になっていて、会社や団体などの大口の顧客は最初に始めた農家が抑えている状態でした。
そこで、新たに顧客を獲得するには品質の高い果物で勝負するしかないと考えたんですね。この一帯には果樹農家が2500軒ほどあるように全国有数の果樹園地帯です。その中でみんなと同じやり方をしても商売にはなりませんから、まずは基本となる土づくりから始め、ほかを圧倒的する高品質の果物を作り、自分のブランドを確立しようと。
当時、化学肥料を使わない農法を実践しているところは県内でもほとんどありませんでした。そのため、誰にも教わることが出来ず、ほとんど独学で手法を確立していったんです。また、果物の収穫は1年に1回ですから少しずつ土壌を改良しなければならず、理想とする土壌を完成させるには長い年月を要しました。最初の20年間は暗中模索の毎日で、納得が出来る果物を収穫出来るようなったのは、平成18年ごろだったと思います。私が家業を継いだ時には市内のお客様がほとんどでしたが、そこから徐々に口コミが広がっていき、いまでは県内2・県外8ぐらいの割合になっています。
■「吟壌りんご」から最高級のシードルを
――最近ではシードル(リンゴ酒)の分野にも力を入れていますね。
加藤 シードルを始めたのは、震災と原発事故を経て、いままで通り果物の販売のみでは将来が見通せないと感じたからでした。また、将来的には自家レストランを経営したいと考えており、そこで提供する自社製品のお酒の開発が必要だったのも大きかったと思います。
具体的に始めたのは26年の暮れで、自分でレシピを作って醸造所に委託製造してみたところ、これが非常においしく試験的に作った1000本のシードルは瞬く間に完売することが出来ました。そのため、翌年は本格的に3000本分のシードルを製造しようと同じ醸造所にお願いしたのですが、これが大失敗で。(笑)腐敗臭がするシードルが出来てしまい、約3㌧のリンゴを無駄にしてしまいました。
3度目の挑戦となる今回は、仙台と長野の醸造所で中期熟成のシードルが1種類、長期熟成のシードルが皮ごと醸した辛口と、ジュースだけにして醸した甘口の2種類、合わせて3種類のシードルを仕込んでいるところです。そのうち、もう間もなく完成する中期熟成のシードルは4月中、長期熟成のシードルは7月中の販売を予定しており、販売先は地元のレストランやホテルのほか、ネット販売を考えています。
――最後に今後の展望をお聞かせください。
加藤 シードルはワインや日本酒と比べて下に見られがちですが、いま世界的に見てもシードルの人気は年々高まってきています。一方で国内においては、贈答品にはならない余り物のリンゴで醸造しているところもあるのですが、我々が目指しているのはこれとは全く逆です。贈答品にも使えるものを原料に、特徴ある「吟壌りんご」の味をしっかりと表現した最高級のシードルをつくり、いずれは世界に打って出ていきたいですね。
また現在、シードルは委託製造をしていますが、将来的には自分の農園に醸造所を設け、果樹栽培とともに自家醸造のシードルを事業の柱にしていく。そして、いずれは自家レストランを通して当園の果物とシードルを提供していければと考えています。
当園の強みは、常に本物を提供してきたことだと思っています。ですから、変に儲けようと思って、例えばシードルを製造する際、ほかのリンゴを入れて量をごまかそうとすれば必ず信用を失うことになります。本物志向をもってお客様にお届けする。このコンセプトを変えることなく、地味ですけど、毎年少しずつでも成長していければと考えています。(聞き手・斎藤 翔)
■加藤修一代表取締役略歴
和36年9月24日、福島市生まれ。東京農業大学を卒業後、実家の果樹農家を継ぎ、昨年1月に同社を設立した。現在、市内で母、夫人と3人暮らし。趣味は食べ歩き。
■企業 DATA
設立:平成28年1月
所在地:福島市大笹生字水口50
事業内容:果樹生産及び果実酒の販売
資本金:200万円
従業員数:4人
http://farmkato.jp
(財界ふくしま2017年5月号掲載)