質と低価格の両面で
入居者に選択肢を
渡辺仁一郎 代表取締役社長
■コンパクトで利用しやすい運営を目指す
――二本松市に平成26年2月、サービス付き高齢者向け住宅「JWS陽だまりの郷」をオープンされましたが、渡辺社長はもともと県庁に勤めていたそうですね。まずは、県職員から介護業界に入った経緯からお願いします。
渡辺 きっかけは4年前の震災でした。県職員時代は保健福祉部にも所属し、その中で介護・障害福祉業務に携わったこともあったので、この業界に興味は持っていたのですが、県職員を辞めてまでとは考えていませんでした。ただ、震災があって私も復興業務に携わる中で、何か別の道もあるのではないかと思うようになったんです。若い方がどんどん福島から離れていき、少子高齢化が一層加速化していく本県の窮状を見るにつれ、地元復興に少しでも貢献出来ることはないかと。
そこで、今後より重要性を増すことが予想される介護事業に思いが至り、覚悟を決めてこの業界に入ることにしたんです。県職員を早期退職したわけですけど、震災と原発事故がなければこうはならなかったでしょうね。もちろん行政の立場から介護に携わりましたが、今度は事業側になりますので介護については全くの素人でした。知人などに助けをもらいながら、ゼロからのスタートになりましたね。
――二本松市で始めた理由は?
渡辺 一つは、施設に入っていない一人暮らしの高齢者が多く、需要が見込まれたことです。また、市内で介護事業を展開しているところは公的な施設が多く、我々のような民間がやっているところはあまりなかったことも挙げられます。民間ですと、何にしろ比較的素早い運営が出来ますので、既存の介護施設で不足している部分を、我々がうまくカバー出来ると思ったんです。
――施設の建設に当たり、意識したことは?
渡辺 とにかくコンパクトな住宅を意識しましたね。豪華絢爛ではなく、コンパクトで入居費用が安く提供出来、地元の人が入りやすい環境を心掛けました。高齢者の方が入居を選ぶに当たっては、サービスの面もそうですが、やはり費用面が一番大きいと思います。豪華なのはもちろんいいことなんですが、その分入居者に負担を掛けなくては経営を続けることは出来ません。ですから、建設面を含めて初期投資をいかに抑えるかを一番大事にしました。幸い私個人の土地がありましたので、初期投資額はある程度抑え、入居費用を安くすることが出来ました。
また、当社では合わせてデイサービス事業も携わっているのですが、それを行うサービス支援棟は高齢者住宅と隣接する形で建設しました。これは、高齢者住宅とデイサービスを一緒にしてしまうと、どうしても入居者中心になってしまうためです。デイサービスは、入居者の方にも利用頂いているのですが、我々は外部の利用者をメーンにしようと考えていました。仮に、高齢者住宅内にデイサービスを造ってしまえば、外部の方は来づらくなってしまいますから、双方を離すようにしたんですね。高齢者住宅にお住まいの方は、いったん外に出てサービス支援棟に足を運ぶことになりますが、散歩がてら気分転換にもなりますので、特にご不満の声は伺っておりませんし、外部の方も気軽にご利用頂いています。
また、デイサービスのほかにも、訪問介護、居宅介護支援、福祉用具の貸与なども携わっているおり、デイサービスでは土曜、日曜、祝日も利用出来るようにしています。このように、ソフト面では「ひとりの人を大切に」を基本理念に利用者やご家族の要望に出来るだけ沿う形で運営に取り組んでいるところです。
■24時間サービスを構築する
――今後の展望をお願いします。
渡辺 介護サービスは、自宅での「在宅サービス」と施設に入所して利用する「施設サービス」があり、我々のような高齢者在宅は「在宅サービス」の取り扱いになります。ただ、今年1月からは、市から指定を受けて地域密着型特定施設入居者生活介護が始まっています。
これは、高齢者住宅に住まわれながら、施設的な介護サービスを受けられるという事業です。通常であれば、介護サービスを利用すればするほど負担が大きくなるのですが、施設ですとサービスの多寡にかかわらず金額は一定です。つまり、入居者の皆さんにとっては安心してサービスを利用することが出来るんです。更には、介護保険の適用にもなりますので比較的低廉な費用となるため、人気の高いサービスなんです。現在48室のうち9室に適用していますが、今後はこの事業を更に拡充していきたいと考えています。
また、介護と一概に言っても、体調や症状など個々人でケースが違いますので、それぞれに合ったサービスを展開していく必要があります。ですから、我々としても入居者とご家族と相談しながらそれぞれのケースに合った密着型のサービスを提供していかなくてはなりません。ただ、いくら良いサービスであっても費用が高ければ断られてしまうことが多いように、やはり費用面が大事になります。入居者がいろいろと選択出来るようサービスの幅を増やしていくとともに、低廉なサービスも合わせて取り組んでいきたい。
今後は少子高齢化が一層加速し、高齢者が増加していく中で、将来的には、施設や高齢者住宅だけでは許容出来ず、在宅サービスの役割が大きくなっていくことが予想されます。当社でもその流れに乗り遅れないよう、特に夜間時の介護サービスを提供出来る体制を築いていきたいと考えています。夜間時における介護サービスの需要は大きいのですが、日中とは違い夜間時で対応出来る施設はそう多くはありませんので、ご家族に相当な負担となっているケースも多い。また現在、当社では日中の訪問介護を行っていますが、合わせて訪問看護も出来るようにしたいと考えています。もちろん、そのためには当然、看護師や深夜帯で働いてもらえる人材の確保が必要となりますので、個人に負担が掛からない職場づくりなどを含めて人材確保に取り組んでいきたいと思います。(聞き手・斎藤 翔)
■渡辺仁一郎代表取締役社長略歴
昭和31年3月10日、二本松市生まれ。安達高校、東北大学農学部を卒業後、二本松市役所職員を経て、55年に県庁に入庁。教育委員会を皮切りに農業総務課畜産課、土地調整課などを経て、県保健福祉部で介護・障害福祉業務を経験。その後、あぶくま養護学校事務長を最後に平成25年3月に早期退職した。同年7月に現職に就任した。現在、市内で母、夫人、息子夫婦、娘、孫と7人暮らし。趣味はウオーキング。
■企業 DATA
設立:平成24年7月
所在地:二本松市表二丁目772
事業内容:介護・福祉事業
資本金:900万円
従業員:40人
http://jws-c.jp/
(財界ふくしま2015年9月号掲載)