菓子を通して
会津を描く地域循環型企業
目黒督朗代表取締役
■社会学習型の見学が可能な本社工場を増設
──社名の由来は?
目黒 私どもの会社は、昭和24年に父・徳一が始めた目黒菓子店という、生菓子の製造・卸から始まりました。54年に屋号を「お菓子の蔵太郎庵」とし、56年に㈱太郎庵となりました。太郎というのは、分かりやすく覚えやすいというのがまずあります。また、男の子を代表する名前で、会津にあっても日本を代表するような会社になりたいと名付けました。キャッチコピーである「お菓子の蔵」の蔵には、大切なものをしまうという意味からおいしいお菓子が詰まっているという意味が込められています。シンボルマークにはランプを描いており、ランプというのは遠くを照らせなくても足元が照らせて、寒い時には温もりをとれることから、「おいしさで温もりのある灯火を灯す」という意味なんです。
──菓子店に生まれ、両親の姿を見てどう感じていましたか?
目黒 一つひとつが手作りでしたから、両親とも朝早くから夜遅くまで働くことで、ほかの菓子製造業者とのハンディをカバーしていていたんでしょうね。幼いころに親が寝ている姿は見たことなかったですよ。その黙々と働く姿を見てきて、将来は表通りに自分の店を出すことが私の夢となり、高校を卒業後は東京で菓子作りの修業を積みました。
──二宮尊徳の教えが経営に生かされていということですが。
目黒 「至誠」と「勤勉」というのは、とても影響されています。人よりも多く学び、人よりも多く働くという「勤勉」。これは寝る間も惜しんで働いていた親から学んだことでもあります。更に「至誠」は相手に対して誠を尽くす。これはお客さんに対してはもちろん、社内でも大切にしていることです。まず身近な人同士から始めることで、接客などにも反映出来ると考えているんです。
──御社の経営理念は?
目黒 「太郎庵宣言」というものを掲げています。
「わたしたちは、いのちにやさしい、心ときめくお菓子を通して会津の風土を描き、お客様と共にやすらぎとぬくもりのある、しあわせな文化を創造します」というものです。この宣言を私たちのすべての行動、考え方の原点にしています。また私たちの使命であると考えています。
つまり、「いのちにやさしい」というのは、身体も心も健康になるような意味で、おいしさで「心ときめく」ような幸せを感じて頂きたい。そこから、お菓子を通して会津の良さを伝えていくということです。
会津産の食材を使用し、提携農家の方からは市場価格より高値で購入することで、自分たちだけではなく、生産者も潤って頂き、会津の恵を使ったお菓子でお客様に喜んでもらいたいんです。「地域とともに生き、地域を元気にする」というのが地域循環型の企業である菓子屋としての使命だと考えています。
そのために、もっと会津の良さを見付けて、お客様に伝えたいんです。この考えから、今年は本社工場を増設し、社会学習型の工場見学が出来る建物にします。会津に興味を持ってもらうため、見学の一部として、会津の歴史を通して、会津の心を語るようなスペースも考えています。
■会津とともに「一店主一店舗主義」の実現
──会津地方を中心に11店舗を展開しており、商品名にも会津にゆかりがある言葉などを用いることは、御社のこだわりでもあると伺っています。
目黒 20歳の時、新宿中村屋の創始者・相馬愛蔵の書いた『一商人として』という本との出会いがありました。そこには、正しい商人のあり方や考え方とともに、「一店主一店舗主義」が大切だと記されていました。それがいまの考え方のベースになっているんです。間口を狭くして奥行きを深くする、会津地域での店舗展開であれば、「一店主一店舗」でお客様の満足を保証する、という理想の形に近付けると思っています。
──御社の社風は?
目黒 昭和54年に1号店を出店した時に、それまで家族経営に近かったところから従業員に働いてもらうようになり、縁ある人を大切にしたいと考え、社員とのコミュニケーションは普段から大切にしています。会社というのはトップの意志が働いてこそ、生き生きと働くものだと考え、社員に私の意志を伝える目的で始めたのが「社長通信」です。いまでも毎日更新しており、本社工場では掲示し、各店舗には朝一番の配送便とともに届くようにしています。
3年ほど前からは、(パートも含め)社員全員の誕生日に1万円を手渡しているんです。誕生日は産んでくれた両親に対して感謝する日と考え、両親に使ってもらうための1万円なんです。
また外部環境や内部環境を強み、弱み、機会、脅威の4つのカテゴリーで要因分析し、事業環境変化に対応した経営資源の最適活用を図る「SWOT分析」を以前から行っていますが、一昨年からは全社員が参加してビジョンを作成しています。そうして出来たビジョンが「働いている社員が幸せになり、お客様から、『会津って太郎庵があっていいところだね』と声を頂ける会社」です。自分では普段気付かない意見などもあり、そこから経営に生かされる発見もあるんです。経営は、人を使って目標を実現するまさに総合芸術だと思います。だから面白い。
──昨年はNHK大河ドラマ「八重の桜」で会津には多くの観光客が訪れました。御社にも「八重の夢」という商品がありますね。
目黒 商品の構想は以前から持っていました。「八重の桜」が放送されると知って、半年間掛けて商品を考案し、放送の1年ぐらい前には販売開始していました。お陰さまで、多くの方にお買い求め頂き、チャンスを逃さずに成功出来た商品となりました。チャンスというのは、準備した人にしか来ないですね。そのためには、学び続けなければならないんだと思います。
──御社の将来展望、抱負を。
目黒 「一店主一店舗主義」のおもてなしが出来る会社にしていきたいです。会津を出ずに、これからもお菓子を通して会津の魅力を発信していきます。個人的には、これから増設する工場で案内人になりたいんですよ。(笑)(聞き手・作間信裕)
■目黒督朗代表取締役略歴
昭和25年1月25日、河沼郡会津坂下町生まれ。若松商業高校を卒業後、6年間の菓子作りの修業をし、家業を継ぐ。54年に第1号直営店を会津坂下町にオープンさせ、56年に㈱太郎庵を設立し、現職に就任。
■企業 DATA
創業:昭和24年8月
所在地:河沼郡会津坂下町字福原前4108-1
事業内容:和菓子、洋菓子製造販売
資本金:3,600万円
年商:12億円
従業員数:130人
(財界ふくしま2014年7月号掲載)