いわき市四倉町が生んだ
世界に通じる大型機械加工技術
木村辰夫 代表取締役社長
■世界に1台限りの最新鋭設備を導入
――現在の業務内容は?
木村 いわき市四倉に製缶板金の加工工場を設け、四倉工業団地内の本社工場で航空関連部品や宇宙開発関連部品などの大型電子機械関連部品の製造を行っています。飛行機のタービン側板加発電機ケーシング加工や焼き付け塗装、大型ロケット側板削り出しなど様々ですが、最新鋭の機材を導入し、高精度・高品目な製品を提供出来るよう設備の充実を進めています。
――創業のきっかけは?
木村 私はもともと県警で20年間、警察官を勤めていたのですが、農家の長男坊だったこともあり、稼業を継ぐために退職したんです。退職と同時に㈲かぎの家・木村という会社を設立して錠前関係の仕事を始めました。現在も業務を行っている会社ですが、こちらで錠前を扱うと同時に建築関係の仕事も扱うことになりまして、建物を扱うと鉄骨なども必要になりますから加工工場を造ることになりました。それが四倉町の工場の前身になりますね。仕事が進むに連れ、製缶・板金の機材も導入することになり、平成4年に別会社として㈱成栄を創業することになりました。昨年の9月には四倉工業団地内本社工場に大型機械の加工工場をオープンしました。社名「成栄」の由来は、私が平成元年に公務員を辞めたこともあり、〝平成に栄える〟という意味を込めて名付けたんです。
――震災から3年が経過していますが現在の状況は?
木村 東日本大震災時は四倉工場に居ましたが、鉄骨工場なので揺れによって機械にもかなりの影響が出ました。原発事故もあったので中通りに一時避難するなど再開まで20日も掛かったのですが、風評被害は鉄骨などにも及んでいて、取引先からの注文減などもありました。大変な時期でもあったんですが、県や国のグループ補助金を活用して、本社工場も設立し活動の場を広げています。
ただ、震災に限らず無我夢中で仕事に取り組んでいましたから苦労は尽きないものなんですが、平成20年のリーマン・ショックの時期は、ある意味で震災以上に大変な時代でもありました。あの時期は製造業や建築業の仕事が激減して、従業員も削減せざるを得ず、出来る限りの節約をして会社の命脈をつないできたんです。震災によってまだまだ私たち製造業の苦労は続くと思いますが、今回は国や県の補助制度を活用して新規事業にも取り組んでいるので、大型電子機械関連部品などの製造部門を開拓して維持していくことが近々の課題でもあります。
――本社工場に導入された設備は、三菱製の最新鋭機材が多数導入されています。
木村 大型液晶、太陽電池など半導体関連分野の部品や大型製缶構造物の加工を行う三菱MVR45など世界に1台しかない高精度・高品質の機械を導入しました。多様な分野での幅広い需要に対応出来る設備を導入したんですが、同時に技術者が設備に追い付いていない問題も出てきています。機械加工の中でも大型機械の加工は特殊な技術を必要とする分野でもあるので、技術者の確保が追い付いていないんですね。業績を上げながらいかにして大型機械加工を扱える技術者を育成していくがが、今後のカギになっていくと思います。
去年の2月に本社工場で15人採用し、大型メーカーへの研修なども進めてはいるのですが、大型機械の高度化が進み、各所で熟練技術者が不足しているのでなかなか難しいところではあります。それでも20~30代の若い人材が多数ですから、飲み込みは早いですね。
■多様な分野で活躍する大型機械加工の技術力
――再生エネルギー関連産業から航空・船舶まで多種多様な分野で技術を発揮していますが、現在は汚染水対策など原発関連事業にも取り組んでいると聞いています。
木村 板金部門で汚染水を防御する金物の製造に取り組んでいます。亜鉛の入っている3.2㍉の板で汚染水をブロックするものですが、3月末までに何千枚という単位で製造していかなければなりません。部品が入ってきたのが2月12日なので急な話ではあるのですが、夜まで掛けて急ピッチで作業を進めています。廃炉関連分野の仕事ということあり、地元福島県の企業が頑張らなければなりませんし、いままでやってきた加工の分野でもあるので自信を持って取り組んでいます。
私たちの仕事は大型機械の加工ですが、建設から宇宙関係まで幅広い分野での機械加工を扱っています。小さな機械加工の会社はたくさんありますが、大型の会社となると本当に少ないのですね。景気の浮き沈みで製造加工業は影響を受けますが、私たちは様々な分野に通用する技術があるので、景気の動向に左右されない強みがあります。それでも今後20~30年後には化石燃料が枯渇し、アメリカではシェールガスなどエネルギー革命も起こりつつありますから、常に会社の方向性を見定めていかなければなりません。今後、エネルギー革命が起これば、衰退していた造船部門や鉄鋼部門など高度成長期に伸びた業種が出てくる可能性もありますから、私たちの業種もまだまだ需要が伸びてくると思っています。ただ、どの国がエネルギー革命を主導するにしても、良い部品を製造・加工する技術がなければ商品を扱っては頂けませんので、今後も技術向上に努める方針です。
海外に目を向ければ、日本企業は部品の生産能力で中国などに追い付けない部分がありますが、高精度・高品質の製造には一日の長があるんです。今後の製造業は大量生産品と高精度・高品質の2極化が進んでいくと思いますが、だからこそ設備の充実や技術者の育成を一層進めていかなければなりません。
――今後の目標は?
木村 製缶・板金、大型機械加工、産業ロボットの組み立てを3本柱として業務を動かしていますが、この事業の芯をずらさずに取り組んでいくことです。幸い事業の柱の設備関係は完了していますから、あとはいかにして中身を充実させていくかが課題ですね。いろいろな戦略はあるのですが、時代の移り変わりをしっかりと見定めながら、クオリティーの向上に努めていきたいですね。(聞き手・丹野 育)
■木村辰夫代表取締役社長略歴
昭和27年12月31日、いわき市四倉町駒込生まれ。四倉高校卒業後、46年に福島県警察本部に入庁。平成元年に退職後、いわき市平に㈲かぎの家・木村を設立し代表取締役に。4年には㈱成栄を設立し、現職に就任。現在は四倉商工会副会長、福島県防犯設備協会副会長、日本ロックセキュリティ協同組合理事を務める。趣味はサックス演奏。座右の銘は「頭は低く、目は高く、心は広く」。
■企業 DATA
設立:平成4年9月
所在地:いわき市四倉町駒込字久原322
事業内容:大型機械加工、製缶、板金、焼付塗装、産業用ロボット製造
資本金:1,000万円
従業員数:25人
(財界ふくしま2014年4月号掲載)