会津産の原乳を使用した
価値ある商品づくり
二瓶孝也代表取締役
■「フード・アクション・ニッポンアワード」受賞
─昨年、フード・アクション・ニッポンアワード2013「食べて応援しよう!賞」を受賞されました。
二瓶 受賞の報告を聞いた時は、あまり実感がわきませんでした。その後、大きな賞を受賞したのだと知り、とても驚きました。表彰式の会場では、受賞した企業の展示スペースもあったのですが、私たちはほとんど何も準備しないまま会場に向かってしまい、慌てて準備をしたのを覚えています。とっさのことでしたので、紙にマジックで書くぐらいしか出来ませんでしたが、周りの展示と比較した際に、手作り感があって、かえって良い展示が出来たのではないでしょうか。
受賞の際、皆さんの前であいさつもさせてもらいましたが、一個人としてではなく、まずは福島県の代表なのだという気持ちであいさつもさせてもらいました。
──地元産生乳の消費拡大に寄与したとして、受賞に至ったヨーグルト「会津の雪」の特徴は?
二瓶 会津産生乳100㌫の無添加濃厚ヨーグルトです。生乳から水分を抜き、牛乳本来の香りを残し、乳酸菌で発酵させており、チーズのようなコクと雪のような口溶けが魅力の商品となっています。
──御社の特色は?
二瓶 会津産の良質な原乳を使用し、添加物を極力使わない製造方法で、素材の味を大事にするのが当社の基本であり、目標です。以前、牛乳業界全体でも価格競争が激化した時期がありました。価格だけで戦っていては、いつか会社がダメになってしまうと思いました。そこで、牛乳をトロトロと鍋で沸かして飲んでいたころのおいしさ、風味、甘みを85度で15分間ゆっくり殺菌することで実現させた「べこの乳」といった、特徴ある商品づくりをしたことで、いまでも生き残れているんだと思います。
当時、三本の柱となる商品が欲しいと思い、牛乳「ベこの乳」に続いて、乳飲料「コーヒー特急」、ヨーグルト「会津の雪」を開発しました。その三本の柱に自信を持って、デパートなどに出向き、試飲などをしてもらい、1人でも多くの方に、商品だけでなく価値も知ってもらえるように売り歩きました。
──東日本大震災による福島第一原子力発電所事故で、一時は原乳の出荷制限がされました。
二瓶 震災による工場への直接的な被害はあまりありませんでしたが、原発事故によって、平成23年3月21日には県内産原乳の出荷制限がされ、工場すべてが止まりました。会津産原乳使用というが商品の売りでもありましたので、県外の原乳を使うことは全く考えていませんでした。原乳が入ってこないことには、作ることも出来ず、もうダメかもしれないと思いました。でも、お客様から「何とかして欲しい」といった声が寄せられたのをきっかけに、知人を頼って岩手県の原乳を、普段使わない大きなタンクローリーで運び使用させてもらいました。お客様の声もあり、出荷制限から工場を休んだのは4日間で済み、すぐに生産を始められました。何とかパッケージなどを変更し、工場から商品を届けられたことで、改めて地元のお客様を大切にしなければいけないなと思いました。
──約半月後、出荷制限が解除されました。
二瓶 解除後すぐに会津の原乳を使用し、製造を始めましたが、原発事故による風評被害もあり一部震災前からの取引先に、「もういらない」と言われてしまいました。それでも、お客様から店側に商品を求めて頂いたことで、再度扱ってもらえるお店も出てきました。またしてもお客様に助けられたんです。
──震災前、「べこの乳」は都内でも多くの店で販売していたそうですね。
二瓶 首都圏で当社の商品を知ってくれている人は以前からいましたが、震災から復活したことを知らない人がまだまだいるんじゃないかと思い、東京で試飲活動などを始めました。復活したことをを知ってもらい、以前購入していたお店に商品を求めて頂くことで、再度取り扱ってもらえないかと考えたからです。
また別の方法として、以前のように「べこの乳」を販売してもらうだけでなく、新たな商品を発売することで、消費者の方の認知度を上げていきたいと考えており、浸透するのも早いんじゃないかと思って、開発に励んでいます。
■「会津ブランド」の向上から風評払拭へ
──風評払拭への取り組みは?
二瓶 取り扱い店を以前に戻すだけでなく、新たに取り扱って頂ける店も探していきたいです。たとえ断られたとしても、断られた時が始まりだと思って、決して諦めることなく取り組んでいます。私は「会津ブランド」には、とても魅力があると思うので、私たちの商品を知ってもらうことで、会津のブランド力が上がり、会津の商品にかかわる産業も向上し、更には風評被害の払拭へつながればと思っています。
──原乳取引をされる、酪農家との関係づくりについてお聞かせください。
二瓶 会津の酪農家は後継者が戻ってきている家が多く、若い酪農家も見られます。ほかの地域からはうらやましがられているのも事実です。以前から取引先の酪農家とは親しい関係をとっており、搾乳した原乳は新鮮なうちに直接工場に運んでもらっており、とても環境に恵まれています。そこには、当社の商品に誇りを持ってくださる酪農家さんたちの思いがあり、私も自分の牛の原乳だと思い大切に扱い、自信を持って商品にしています。ほかの地域と比べても、会津は酪農家が多いので、交流の場が自然と生まれていますが、これはとても重要なことで、互いの情報や意見が交換されるため、良質な原乳作りにもつながります。
──今後の展望や目標は?
二瓶 若い社員が活躍出来る会社づくりをしていきたいと思っています。昔、牛乳屋だったころは、いつか乳業会社にして、自分たちの工場を持ち、組織を大きくしていくことが夢でした。だから、若い社員には夢を持ってもらいたいです。私も、夢があったからやってこれたんだと思います。 (聞き手・作間信裕)
二瓶孝也代表取締役略歴
昭和20年12月20日、中華人民共和国黒竜江省ハルピン市生まれ。43年に駒澤大学商経学部(現・経済学部)を卒業後、当時新潟県にあった中越牛乳㈱勤務を経て、44年、家業である㈲坂下ミルクプラント(現・会津中央乳業㈱)の専務に。61年、現職に就任。昭和50年には会津坂下青年会議所理事長を務め、平成24年から福島県牛乳協会長を務めている。現在は会津坂下町内の自宅で、夫人と2人暮らし。趣味は音楽で、アカペラグループにも所属している。
■企業 DATA
設立:昭和23年9月
所在地:河沼郡会津坂下町大字金上字辰巳19-1
事業内容:牛乳・乳飲料・発酵乳・アイスクリームなどの製造販売
資本金:6,000万円
従業員数:22人
(財界ふくしま2014年3月号掲載)