不動産業は人間業!
顧客第一を掲げる新星
小林恒典代表取締役社長
■コンサルタント型の営業を展開
――社名にもある「オレンジ」には深い由縁があると伺っています。
小林 私が大好きな色でもあるのですが、オレンジ色はとても不思議な力を持っているんです。オレンジは太陽の色であり、暖色系の中でも特に柔らかく、温もりに満ちた色です。また、誰をも寄せ付け元気にしてくれる力を持った色であり、チャレンジ精神が湧いてくる色です。私が求める不動産業者の姿が、社名であるオレンジに象徴されているものなんですよ。この色こそが当社のスタッフが目指すカラーであり、すべてのスタッフが魅力あふれるオレンジ色に染まってくれることを願って名付けました。
――質の高い接客サービスと少数精鋭の社員教育は県内の不動産業にあって有数のものだと伺っています。
小林 ほとんどのお客様にとって不動産を購入する機会は一生で1~2度あるかどうかです。当然、物件を買い慣れていないので、どれぐらい諸経費が掛かるのか、法的な部分でどんな家が建つのか分からないことが多いんです。民法の知識から、司法書士、税理士、土地家屋調査士などある程度浅くても広い知識を持たないと不動産というのは判断がしにくい部分があるんです。その中で、一般のエンドユーザーの方に理解して頂くのも難しいですよね。
ですので、お客様に不動産を選んで頂くというよりは、お客様のニーズを私どもがすべて聞き出して、一番合う不動産を提唱するコンサルタント型の営業活動を展開しています。それぞれ10人お客様がいれば10通りのプレゼンテーションがありますし、各自が提案企画をしなければいけません。不動産取引の現場で必要とされるのは、お客様のパーソナルな問題について、一つひとつきめ細やかに対応出来るスタッフだと思っています。会社設立時から「ERAオレンジの商品はスタッフ」と唱えてきましたが、マニュアル人間をつくらず、スタッフの更なる人間力の向上を目指した人材育成に努めてきました。
今度、2人の新しいスタッフが入るんですが、当社のスタッフは私と出会う前は全員が不動産未経験者なんです。私と出会ったのがきっかけで、この業界に飛び込んで来ました。不動産業は人間業ですが、知識や経験など基本的な考え方は、いくらでも伝えることが出来ます。でも、本当に大切なのは素材なんですよね。他業種で培ったセンスや能力を十二分に発揮して、お客様の喜びを感じ取れるスタッフを育てていきたいと思っています。
■“強い”会社を作り上げるために
――一昨年の東日本大震災では、ほとんどの会社が休業する中で、1日も休まずに営業を続けられたと聞いています。
小林 当日の夜、不動産業に携わる者として業務を全うする時だと感じ、全社員に翌日の出勤を命じました。みんな不安だったと思いますし、正直、私も不安でした。ただ、家族や家、会社が無事だった私たちは、家族を失った方、家を失った方、勤める会社を失った方たちよりも余力が残っているはずです。何か出来ることが必ずあるはずだとスタッフに話しました。
翌日の12日には、震災で自宅が崩壊し、昨日は近くの公民館に宿泊したというお客様や、津波で自宅が流され、着の身着のまま現金も身分証も持ち合わせないお客様が来店されていたんです。すぐスタッフに、これから現金や身分証明書を持たないお客様が多数ご来店されるだろうから、管理アパートのオーナー様にそのようなお客様にもお部屋を貸し出す許可をとるよう命じました。
しかし、福島第一原発の原子炉水素爆発後は、当社スタッフも避難を始め、一人二人とスタッフは減り、最後に会社に残ったのは、私を含め2人だけでした。断水に続きガソリンや食料までもなくなる中で、放射能の脅威に恐れず、眼鏡に帽子、マスク姿で自転車を漕いでお客様を案内してくれたスタッフの姿はいまでも忘れられませんね。
――震災後のいわき市では双葉郡の避難者の流入などにより、地価が上昇し、住宅の不足が問題となっています。業務への影響はありますか。
小林 私がこの業界に入ったのは平成2年になりますが、当時はバブル絶頂期で弾ける寸前の時代で、いまと同じように不動産に需要があった時期でもありました。ただ、その時と違うのは、この好景気は時間的な期限がいつか来るのかが分かっていることです。不動産を含めていわきで経済が動いている一番の理由は、双葉郡から多数の避難者の方が来られていることだけなんですよ。
10年以上お付き合いしている大きな地主の方がいるんですが、昔ながらの方なので親戚や近所の目を非常に気にして、普段なら土地を手放しません。でも、そういった方ですら、土地を売るのはもういましかないと仰っている。ただ、売りたいお客様は会社との信頼がなければ物件を預けてもらえません。震災後は需要が多いので物件が不足している不動産会社はいると思いますが、平素より信頼関係を重んじて、きちんとした仕事をしていた会社であれば、この時期だからこそ売却のオーダーも頂きます。
――今後の展望・目標は?
小林 いわきで不動産業に携わらせて頂く者の使命として、一人でも多くのお客様に安心して頂ける、安心して生きて頂けるための住まいの提供、これに尽きると思います。積極的に遊休地などがあれば宅地化するような働き掛けをして、一戸でも多く仮設住宅から出て頂くために民間アパートの貸家などを造るような働き掛けをしていきます。
私は事業を拡大して大きな会社を作るより、強い会社を作りたいんです。オリジナリティーを持った店舗づくりや広告サービスの提供を心掛けていますが、形あるものは他の会社でも真似することが出来るかもしれません。でも社員教育や営業などは無形の財産ですから、誰も真似することは出来ない。強い会社とは強い商品を持った会社であり、不動産では商品はスタッフになります。何よりもスタッフの教育、そこに尽きますね。社員一丸となって、お客様一人ひとりの満足をこれからも追求して参ります。
(聞き手・丹野 育)
小林恒典代表取締役社長略歴
昭和43年1月8日、いわき市三和町生まれ。61年磐城高校卒業後、建設関係の労働保険事務組合勤務を経て、市内の不動産会社で8年間、売買仲介、土地分譲などに携わる。平成10年には不動産会社の設立に参画し、専務取締役として6年勤務。16年に同社を設立し現職に就任。現在はいわき市に夫人、子供2人との4人暮らし。趣味は野球、ゴルフなど。
■企業 DATA
設立:平成16年12月9日
所在地:いわき市泉町滝尻字下谷地12-1
事業内容:不動産売買取引にかかわる一切の業務(仲介、売買、不動産査定、下取り、分譲、開発事業など)
資本金:1,000万円
従業員数:8人
(財界ふくしま2013年8月号掲載)