【2026衆院選】福島1区 情勢分析
西山は比例当選も見据えた二枚腰か
○金子恵美 60 中道前④
▲西山尚利 60 自民新
亀岡偉一 37 無所属新
有権者数:375,353人
▼窮地にあった金子が、一転、漁夫の利を得る?
年初より急激に吹き始めた解散風について、自民党の選挙を仕切る鈴木俊一幹事長や、高市早苗総裁誕生の立役者であり、後見役の麻生太郎副総裁ですら事前に知らされることはなく、当初は懐疑的な政権幹部も少なくなかった。しかし、女性初の総理大臣となった高市首相は、1月23日召集の通常国会冒頭で衆議院の解散を表明。1月27日公示―2月8日投開票という、解散から投開票までわずか16日間しかない戦後最短の選挙戦が始まった。
1月23日時点では、立憲民主党と自公連立政権を解消した公明党の衆議院議員で結党した「中道改革連合」から、立民の県連代表も務めた現職の金子恵美。2年前の10月の解散総選挙で自民公認の亀岡偉民が金子に敗れて以降、福島1区では次期衆院選の候補者が決まらない状態が続いていたが、実戦を前に昨年11月まで県議会議長を務めていた新人の西山尚利が自民党の公認候補に収まった。
西山は福島東高校から法政大学経済学部に進み、民間企業や議員秘書を経て平成11年に福島市議会議員に初当選。4年後に県議に転身し、5期の間に自民党県連で政調会長、総務会長、幹事長を歴任し、令和5年12月に県議会議長へ就いた。慣例では2年となる議長任期の途中にあって、昨年11月の福島市長選への出馬を表明すると見られていたが、
「市長選で西山さんは、自民党福島市総支部が推薦した現職の木幡(浩前市長)ではなく、立民を離党した馬場(雄基・衆議院議員)さんの強力な後ろ盾となって当選させた。馬場が市長選で負けた場合は自民党の1区候補者になるとの噂が流れていたが、いま考えると、馬場が市長に当選したら1区の候補者選びは振り出しに戻る。それを見据えて自分の選挙のように馬場の選挙を支援したのでは?福島市の自民党支部の意思決定に反しても、勝てば官軍ですよ」
という見立てもされている。
昨夏の参院選では今回は2区での出馬を決めた大山里幸子が1区内で4万2,553票を獲得したほか、1区内の比例票でも2万3,000票余りを集めている。福島1区においては高市首相の政治理念と親和性がある参政党が候補者の擁立を見送り、その支持層が保守系候補に上積みされるのは確実だ。
西山にとっての懸念材料は、衆院選の公示前に選挙区内の神社の例大祭などで寄附行為をした疑いで起訴され、公判で無罪を主張している亀岡の長男で新人の亀岡偉一も無所属で参戦する意向を固めたことだろう。新人の亀岡の正式な出馬表明は、1月24日に開かれる後援会の席上で行う運びとなっている。
新人の亀岡は福島高校から成城大学社会イノベーション学部へ進み、早稲田大学大学院政治学研究科の公共経営修士課程を修了。証券会社勤務を経て、父である亀岡事務所に2年近く籍を置き、その後は日系コンサルティング企業に勤めていたという。
亀岡の支持者などからは、子息の出馬について、
「(落選する前から)ずっと秘書を務めていた次女が世襲をして、金子との女性候補同士での一騎打ちをしてもらう。待望論もあったが、本人が暗に偉民さんの引退を促すようなものだという気兼ねして秘書を辞めたからね。今度出る長男も何回か前の選挙で偉民さんと一緒に歩いていて、ウチにも来た。偉民さんから『私の後継者』と紹介されたこともあったけれど、親子関係では長男だから、どっちの意味での後継者なのだろうと思っていた」
と素直に驚く声も聞かれる。
自民党公認の西山、無所属で新人の亀岡による共倒れを避けるためにも一本化を望む声が出ているが、亀岡は寄附行為は冤罪だとして、徹底的に無罪で争う姿勢だ。そして、「亀岡」の名が選挙に出てこないということは、罪を認めるようなものだという認識を持っているとも言われている。
自民公認の西山と新人の亀岡が出馬することになれば、保守分裂は避けられず、相対的に金子が当選ラインに浮上していくのは間違いない。これまでも非自民の受け皿だった金子には、今回からは新党を組んだ公明票の上乗せが望めるからだ。
▼自民・西山の比例復活への道筋は?
参議院から鞍替えした金子が旧1区で初当選をしたのは2014年で、この時には小選挙区で亀岡に約5000票差で敗れたものの、惜敗率94.8㌫で旧民主党の比例東北1位で比例復活を果たした。2017年には無所属の金子が亀岡に約1万3,000票差を付けたが、亀岡は惜敗率89.618㌫で比例東北の重複候補者の中でトップとなる復活当選を果たしている。
ただこれ以降、1区に衆議院議員が2人いることが常態化し、1区の有権者もそれを好意的に受け入れるムードが醸成されていった。しかし、旧民主党が政権を取った2009年以来、8年ぶりに自民が1区の議席を確保出来なかった影響は決して小さくはなかった。自民党と亀岡にとっては、小池百合子東京都知事が率いる「都民ファーストの会」と前原誠司民進党代表による「希望の党」への参加を見合わせ、無所属となった金子を追い落とす絶好の機会を逃したのである。
そして一昨年10月末の衆院選では、過去2回とも比例重複の復活当選だったことから、自民党の内規で比例登録が認められなかった亀岡偉民が背水の陣で臨んだものの、結果は、立憲民主党公認の金子恵美が4万票以上の大差を付けて大勝した。しかし、この時は旧安倍派の政治資金問題に端を発した政権与党への批判票が金子に来たに過ぎない。それはこれまでに3度、亀岡との一騎打ちを演じてきた票差からも明らかなはずである。(資料①)
ただ、この時といまとでは、中央政界の枠組みが一変している。政権与党の立ち位置からすると自民党に閣外協力するのが日本維新の会で、衆議院の解散1週間前に急ごしらえで結党した「中道改革連合」の公明党が離脱した構図となる。これも国政選挙では直近の民意である昨夏の参院選の比例票を照らし合わせると、1区での日本維新の会は約6,000票、公明党は約1万5,000票だ。シンプルに計算すると、これまでは保守陣営の票だった分が約9,000票減り、それが金子に流れることで都合、約1万8,000票分の票差がつくこととなる。
だが、金子が代表を務めたこともある立民県連は、昨年の福島市長選で立民の所属議員の一部が馬場の支援に走ったことで、最大の支持母体である連合福島から「関係凍結」を突き付けられた。金子の選挙は独自の後援会組織が手薄であっても、立民、国民、社民の各党県連と無所属議員も含む県議会会派の県民連合、連合福島で構成される「5者協議会」が推す統一候補としての戦い方である。
その屋台骨を支える連合福島が立民県連のガバナンスに態度を硬化させたことで、金子は窮地に立たされていたのである。事実上の分裂選挙になった福島市長選で生まれた大きな亀裂は、実際に立民抜きでの5者協議会ならぬ、4者協議会による会合が開かれたほどだ。しかし、今回の急転直下の解散総選挙を受け、再び5者協議会による非自民、非共産の政治勢力の構築に進み出しているという。
ただその一方で、中道改革連合と共産党との距離感はいままで以上に離れることで、共産党とも良好な関係を築いてきた金子の立ち回り方は更に難しくなった。1区での候補擁立を見送った共産党には1区全体で1万5,000票ほどの組織票があるとされており、取りこぼしは防ぎたいところだろう。
金子陣営を支える「5者協議会」の関係者からは、
「立民県連との凍結が解除されたわけではないし、4区には立民の現職と国民民主の新人が立つという、いままでにはない選挙構図となった。これはある意味で1区とは逆の構図だね。数合わせでは確かに1区の金子が有利な情勢ではあるけれど、自民では亀岡の息子を比例で処遇し、西山で一本化するという噂も出た。あり得ないことだけれど、それだけ自民党には危機感があるということだ。万が一、亀岡が下りて西山に一本化したら、局面はガラッと変わる。それと、立民と公明は5者協議会とは別な形で、同じ政党としてこの選挙に臨まなくてはならない。本当にどれだけの公明票が来て、それからいままでの分を目減りさせずに済むのか―。手探りで、ぶっつけ本番でやるしかない」
と気を引き締める。
一昨年の解散総選挙では、2区から出馬した新人の根本拓が惜敗率75.1㌫で比例東北(定数12)の最後の議席に滑り込んだ。自民公認の西山には、同じく新人の亀岡との間でどれだけの保守票を喰い合うことになるのかを想定しながら金子と戦わなくてはならない。更に比例での復活当選を含め、確実に勝機はつかむためには、亀岡の岩盤票を奪う選挙戦も仕掛けていかなくてはならないだろう。無所属で新人の亀岡は、ダメージコントロールに終始するだけでは当選は覚束ない。次につなげるためにも、自民公認の西山を凌駕するようなインパクトを示さなくてはならないところだ。(板倉)
※福島1区の選挙構図の検証については、本誌3月号(2月10日発刊)に掲載します。


