【2026衆院選】福島4区 情勢分析
反自民票は山口出馬で斎藤・熊谷3人に分裂
△坂本竜太郎 45 自民前①
▲斎藤 裕喜 46 中道前①
熊谷 智 46 共産新
▲山口 洋太 35 国民新
有権者数:390,891人
▼最終的に「現・新4人」の戦いか
本県4区には現時点(1月下旬)で自民現職の坂本竜太郎(45)と前回の選挙で比例復活した中道改革連合(以下「中道」・旧立憲民主)の現職・斎藤裕喜(46)、前回も出馬した共産党新人・熊谷智(46)、更に県議から転身した国民民主の新人・山口洋太(35)の合計4人が正式に出馬を表明。また、動向が注目されていた参政党は1月22日、小選挙区への候補者擁立の見送りを正式に明らかにした。
ただ、戦いの構図はようやく固まりつつあるものの市内の有識者、選挙通からは、
「1月中旬までは『坂本の再選は厳しい、斎藤優位は揺るがない』との声が多かったが、山口が出馬したことで反自民票が斎藤と山口に分裂し情勢が大きく動いている。自民党内の分析では坂本が優位に転じたとして大臣級の応援を取り止めたらしい」
「参政党が小選挙区に候補者を擁立するか否かで情勢が変化すると見ていた。仮に擁立すれば坂本が影響を受けることになったはず。ただ、これで市長選に出て落選した宇佐美(登・元衆院議員)の名前が取り沙汰されていたが、宇佐美の出馬もないでしょう。ほかに、れいわ新選組の大石(あき子)共同代表と親しい清水(敏男・前いわき市長)さんが、れいわ新選組から出馬するのでは?との突飛な噂が流れているが、さすがにいま(1月下旬)となっては無理ではないか?」
など、混迷極まる情勢が続く中で憶測も含め様々な情報が飛び交っている。
周知の通り、同区は前回の選挙から区割り変更で、いわき、相馬、南相馬各市と双葉郡、相馬郡(新地町・飯舘村)の3市2郡が一体となり、有権者数は約39万人(令和7年12月時点)。震災・原発事故から15年を経たいまも地域ごとに復興の温度差や政策課題が異なり、「一枚岩になりにくい選挙区」としての性格を色濃く残す。
前回(令和6年10月)の衆院選では、自民・坂本、立憲民主(当時)・斎藤、共産・熊谷の3氏が争い、坂本が8万5,751票で初当選。斎藤は7万8,708票、熊谷は1万9,879票だった。坂本と斎藤の票差は7,043票。県内4小選挙区で自民党が小選挙区勝利したのは4区のみで、表面的には「自民堅守」に映った。
しかし、中身を精査すると構図は全く異なる。坂本の勝利は、いわき市と双葉郡での上積みが決定打となった一方、新たに選挙区へ加わった相馬市・南相馬市・相馬郡では、合計で斎藤が465票上回った。浜通り北部では既に立憲民主が優位に立ちつつあり、「坂本優勢」という事前評価は終盤に入って崩れた。
選挙戦序盤、いわき市内では「坂本優位」が大勢だった。世襲議員であり、市議・県議経験を持つ坂本に対し、斎藤は政治家として無名に近い存在だったからだ。だが斎藤は、公示後に選挙区全域を徹底的に歩き、知名度不足の克服を図った。
共産党候補への一本化を巡って残っていた当時の旧民主支持層との“しこり”も解消され、終盤には「勢いは斎藤」との声が相次いだ。福島政経特報が投票1週間前に報じた情勢分析では、いわき・相馬・南相馬各市と相馬郡で斎藤優位、双葉郡は横一線とされ、数字上でも坂本は追い込まれていた。選挙関係者の多くは「あと1週間あれば逆転していた可能性は高い」と分析。坂本の過去の飲酒運転問題が蒸し返されたこと、自民党派閥の政治資金不記載問題が直撃したことも、逆風として作用したといわれる。
▼自民は「組織の立て直しが急務」の声も
当選後の現職2人の評価は明暗が分かれている。
まず、坂本については「新人議員で結果を求めるのは酷」との擁護論がある一方、「国会議員としての動きが見えてこない」との声が根強い。後ろ盾だった二階俊博元衆院議員の引退、派閥解消により、党内での存在感をどう築くかが課題となってきた。
一方、比例復活で初当選した斎藤は、泉健太元立憲民主党代表の秘書時代の人脈を生かし原発問題、再生可能エネルギー、浜通りの生活基盤整備などについて積極的に発信。演説力や政策理解への評価は高く、「次は小選挙区で」という空気を着実に醸成してきた。
こうした中で迎えた今回の選挙。市内の選挙通は1月中旬時点で、
「(坂本)竜太郎君は票の目減りが著しい。小選挙区での当選は非常に厳しい状況だ」
と指摘。その上で、
「前回は4区全体で約2万票の公明票が(坂本の)勝利に大きく貢献した。でも、今回はその票が中道(斎藤)に流れる。恐らく、竜太郎君が獲得出来る公明票は、良くて3割程度では?(斎藤との)前回の票差は約7,000票だから単純計算では断然、斎藤が優位」
と分析。坂本を取り巻く厳しい情勢は、共同通信社が中道の結成を受け公明支持層の票が自民候補から中道候補に回ると仮定して前回(令和6年10月)の衆院選の獲得議席への影響を試算した結果、自民と旧・立憲民主が対決した全国190選挙区のうち自民が勝利した88の半数の44で逆転を許す試算が出ているが、逆転を許す結果となった44選挙区の中に本県4区が含まれていることからも明らかだった。
更に、市内の自民党関係者が、
「ちょうど選挙期間中に、いわき市議会で臨時議会の委員会や各会派の研修旅行が入っている。前回のように(坂本を)手伝うのが難しい。前回は自民党の市議会議員が選挙カーやポスター貼りなどの段取りを全部担ったが、今回はスケジュール的に難しい。
青木(稔・前県議)さんの後を引き継いで自民党のいわき総支部に就いた鈴木(智・県議、自民党県連幹事長)も、今回は幹事長として全県下を見なくてはならないから、自民党関係者に『いわきの方は頑張って』と話していると聞いている」
と述べ、いわき地区の自民内の支援体制が整っていないことを指摘していた。
ちなみに、いわき地区の自民組織をめぐっては昨年12月、同市平童子町のいわき建設会館4階に長年、入居していた同党いわき総支部事務所を閉鎖している。
前出の自民関係者は、
「いままで事務所の家賃は国会議員、県議、市議たちが分担して拠出してきた。だが、国会議員2人を筆頭に未納の状態が続き、契約更新時期で賃上げに対応出来なかったことが閉鎖の理由だと聞いている」
と指摘。続けて、
「ただ、事務所の閉鎖を鈴木(智)総支部長が市内の支部長に相談せず一方的に進めてしまったことで、支部長たちから批判の声が上がっている。しかも、(坂本)竜太郎君に相談もせず総支部の事務所を一時的に竜太郎君の平事務所に移してしまった。(いわき総支部事務所の)女性事務員も解雇してしまったので、いままでの事務を把握している人もいなくなってしまった。果たして、こんな状態で選挙が出来るのか?」
と述べていたが、同党いわき総支部の組織の立て直しと事務所閉鎖の問題が坂本の票の目減りに拍車を掛けていると見られていた。
▼国民民主・山口出馬で情勢が一変!
一方、中道・斎藤は先に述べた通り当選後、「小まめな活動」を継続。1月20日の中道入党の締切日、正式に参加を表明。当初は公明票が期待出来ることから、
「頭一つリードしたと見て良いのではないか」
との声が聞かれていた。
斎藤は周知の通り、前回の選挙では福島県政界で結束してきた連合福島・立民県連・国民民主党県連・社民党県連・県議会会派県民連合による「5者協議会(以下「5者協」)の支援を受けた。だが、冒頭で触れたように1月19日に国民民主党公認の新人・山口が正式に出馬を表明したことで支援体制が大きく変容した。
山口は京都市出身。京都府立医科大卒。東日本大震災・東京電力福島第一原発事故からの復興に携わるため来県し、令和5年11月の県議選いわき市選挙区(定数10)から無所属新人として1万277票を獲得しトップとわずか1票差の2位で当選。今回の衆院転身については、
「(国民民主の)一次候補には入っていなかったが、榛葉(賀津也)幹事長が強く推したと聞いている。国民民主は議席拡大のため立憲現職に対抗馬を擁立しているが、その流れで福島4区も山口を擁立してきた」
といわれている。
斎藤と山口の支援体制について5者協は1月20日に会議を開き、「斎藤・山口の候補者一本化は無理」と判断。立民連合は斎藤、国民県連は山口を支援する方針を明らかにした。また同月22日、リモートで開かれた連合福島の執行委員会でも、
「それぞれの組織、団体の判断で斎藤、山口双方を支援する」
との判断が下されたが、5者協で候補一本化が図られなかったのは初めてだという。
今回の事態について前出の選挙通は、
「4区に限っては中道の斎藤と国民民主・山口で労組系の票が分裂することになるだろう。(斎藤は)公明票がプラスになるのは間違いないが、前回獲得した5者協の票が減ることも確かだ。山口にとってはプラスだが、斎藤はプラスもマイナスもある状態だ」
と分析。続けて、
「山口は前回の県議選で組織のない中で2位当選したが、獲得した票は医師としての評価と浮動票です。4区に国民民主の基礎票がどの程度、あるかは疑問だが、今回、国民民主の公認を得たことで労組系の票が期待出来る。山口は県議として、いわき市内の医療関係の充実にしっかりと地に足をつけて活動している姿勢が高く評価されている。それに、仮に今回、国民民主の玉木代表が選挙区に入るようなことがあれば基礎票と浮動票が一気に山口に流れ斎藤、坂本を破ることも予想される」
と述べているが、参院選で躍進した国民民主が山口の擁立によって、都市部や現役世代の票を一定数掘り起こす可能性があるのは確かだろう。ただ、中道との関係もあり、「野党票の分散」が更に進む可能性も否定出来ない。
また、共産からは前回に続き同党県委員会いわき・双葉地区委員長の熊谷が出馬する。熊谷は喜多方市出身で福島介護福祉専門学校卒。いままでに平成28年の参院選比例代表、平成29年と令和3年の衆院選5区、令和6年10月の衆院選4区に出馬。前述通り前回は約2万票を獲得。選挙区内では一定の固定支持層を持つ。勝敗に直接絡む可能性は高くないが、混戦下では「票の分散要因」として無視出来ない存在で、自民党が、
「坂本が一歩抜け出た」
と分析する要因の一つになっている。
▼接戦で「複数の比例復活」に期待の声
このほか、候補者擁立を見送った参政党は1月中旬時点で、
「3区以外の1、2、4区で候補者の擁立を目指している」
と噂されていた。同党は昨年7月の参院選で、4区全体で約4万5,000票、いわき市だけでも約3万1,000票を獲得。自民、立憲ともに前回参院選から票を大きく減らし、その受け皿となった。参院選後、参政党福島県支部連合会は次期衆院選について「県内全選挙区で擁立を考えている」と回答。タウンミーティングやワークショップに加え、辻立ち、ポスティング、あいさつ回りといった地道な活動を強化してきた。
当初、同党の4区の候補者については、
「市長選に出馬した宇佐美を擁立するのではないか?」
との噂が実しやかに流れていた。だが、同党関係者は、
「それは絶対にない」
と宇佐美氏擁立の噂をキッパリと否定していた経緯がある。(1月中旬)
そんな中、今回の選挙での参政党の動きについて市内の選挙通は、
「候補者を擁立しない場合、恐らく小選挙区は山口を支援する可能性が高い。そうなれば斎藤、坂本にとっては、かなりの脅威だ」
と推察する。
いずれにせよ、現在の情勢について市内のある有識者は、
「混迷を極めているのが正直なところだ。(自民の)坂本は前回の貴重な公明票の大半が今回は斎藤に流れる。いわきの自民党組織が機能していない状態で当選は厳しいと見られていた。でも、反自民の分裂で漁夫の利を得る可能性も出てきている。また、斎藤は公明票が期待出来るものの果たしてどの程度、票に結び付くかは未知数。国民民主・山口の出馬で前回のように『反自民票』を全部、取り込める状態ではない。当然、前回支援を得た5者協の票は国民民主・山口と分散することになる」
と指摘する。
この点については前出の選挙通も、
「坂本は前回の公明票、自民党組織の支援体制の未整備の中でどの程度、票の目減りを食い止められるか?斎藤は山口との間で分裂する票をいかに獲得出来るかがポイント。また、山口は浮動票獲得と参政党の票、それに、選挙区内にどのくらい、あるか分からないが国民民主の基礎票をまとめ上げ、更に中央から玉木(雄一郎)代表や椎葉幹事長が入れば流れが大きく変わる可能性もある」
と分析。続けて、
「当初、斎藤が頭一つリードしていると見られた情勢は刻々と変化している。投票日まで2週間を切っているが混迷極まる情勢に変わりはない。ただ、接戦になり惜敗率が高くなれば4区から比例復活の当選者が複数出る可能性がある。飛び抜けて強い候補者がいない分、比例復活で一人でも多く国会議員が誕生すれば4区全体の震災・原発事故からの復興にも弾みが付く」
と述べている。
東日本大震災・原発事故から15年、選挙区内の有権者からは、
「政治にいま求められているのは、復興を語る力ではなく『復興後を設計する力』だ。次の衆院選は、誰が勝つか以上に、誰がこの問いに答えられるかが問われる選挙になる」
「(4区は)長らく『復興』を共通言語として政治が語られてきた。しかし原発事故から15年が経過し、いま、地域が直面しているのは復興の継続ではなく『自立の成否』だ。復興予算が終わったあと、自治体財政はどうなるのか?地域は生き残れるのか?廃炉は本当に産業になるのかなど、多くの課題を抱えた福島4区の転換点に応えてくれる人間にこそ、この地域の政治を託したい」
などの声が聞かれている。果たして勝ち残るのはどの候補者か?また、誰が惜敗率で救われるのか?現時点(1月下旬)では冒頭で触れた通り「坂本が一歩抜け出た」との自民党内の分析はあるものの、今後、参政党支持者の票の行方も含め、
「投票日前日まで票の読み難い混迷極まる情勢が続くのではないか」(前出の有識者)
との指摘は多い。(鈴木晴)



