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あの味この味 区切り

2016年8月1日

有限会社及川造船所

新たな観光ツアーで
地元復興に貢献したい

 

 

及川和英 代表取締役

 

 

 

■原発事故により避難を余儀なくされる

 

 

 

――まずは事業内容からお聞かせください。

 

 
及川 当社は昭和45年に父・初夫が創業し、これまで地元・久ノ浜を中心に漁船建造に取り組んできました。私はその2代目で、平成25年から父の後を引き継いでいます。
現在はFRP(繊維強化プラスチック)製の新造船建造・修理のほか、FRP製品の製造加工などを行っています。FRP製は、船体をお客様の希望に沿う形で柔軟に作ることが出来ることや取り換え修理が容易であること、更には風化、腐食に強く耐久性にも優れているため、小型漁船の大半は木造からFRP製に代替されています。

 

 
FRP製の造船は、船舶の型枠を基に作られますが、この型枠は造船所ごとにそれぞれ違っており、同じ形のものはありません。一般的に船舶はスピードと乗り心地が重要視されていますので、当社では軽量化はもちろん、横揺れを少なくするなど、乗り心地にも目配せするようにしています。また、震災後は特に耐久性を気にされる方も増えていますので、これらのバランスに注意しながら高品質、高精度の船舶の生産に努めております。

 

 
――平成23年に起きた東日本大震災と福島第一原発事故によって、一時、千葉県船橋市に避難を余儀なくされました。

 

 
及川 工場はいわき市の久ノ浜に立地していたため、震災の津波被害で骨組みを残してすべて流されてしまい、更には原発事故もあって身内のいる千葉県船橋市に避難せざるを得ませんでした。それから半年ほどは民宿に泊まりながら、同様に被害のあった千葉県や茨城県の船の修理を行っていましたが、工場の被害があまりにも大きかったため、一度は閉鎖も考えていました。しかし、この間に取引先から新造船の発注を頂いたこともあって、久ノ浜に戻ることにしたんです。国の補助金を活用しながら、地元の漁師さんにも協力してもらい、震災から1年後にどうにか再開することが出来ました。

 

 
――新造船の依頼が急増したそうですね。

 

 
及川 それまでは、新造船よりも修理の方が圧倒的に多かったのですが、年間1、2艘ほどだった新造船の発注が、震災の影響で4、5倍にまで増えました。津波の被害が東日本にまで及んだからで、地元の造船所ではとても対応出来ず、九州まで新造船の発注があったそうです。当社でも、北は青森県から南は千葉県に掛けて発注があり、仕事は多忙を極めましたね。

 

 
そのため、皮肉なことに震災前より業績を伸ばすことが出来ました。ただ、いまはだいぶ落ち着いてきており、本来の修理の仕事に戻りつつあります。

 

 
■洋上風力発電見学ツアーを開始

 

 
――そのほか、洋上風力発電の見学ツアーにも取り組んでいますが、きっかけは何だったのでしょうか?

 

 
及川 震災前までは、海釣りを楽しむ遊漁船「第2及川丸」の運行もしており、大事な収入源の一つでした。しかし、原発事故後、利用客はゼロになってしまい、維持費だけが掛かる状況になってしまいました。どうしたものかと悩んでいたところ、地元の久ノ浜商工会から洋上風力発電を見学するツアーを提案して頂きまして、それで26年9月から、久之浜漁港から広野火力発電所、洋上風力発電設備「ふくしま未来」を約2時間掛けて回る「きらきらツアー」を始めることにしたんです。今年5月には日本野鳥の会さんが団体で利用して頂いたように、好評を頂いているところです。

 

 
――県内では、新たな観光資源として復興に歩む姿を国内外に発信する「ホープツーリズム」が注目されています。

 

 
及川 こういった需要は県内外で多いと思いますので、もっと広げていければいいですね。ただ、このツアーは参加した方からは大変好評なのですが、まだまだPR不足なのは否めず、あまり認知が出来ていません。また、遊漁船とは違って一度利用しただけで満足してしまう方も多く、リピーターは生まれにくいのもネックとなっています。まだ始まったばかりの事業ですし、私たちも経験が不足していると感じています。まだまだ改良出来る点はありますので、今後も継続して取り組んでいきたいと思っています。

 

 
今年度中には、近くに商業店舗や郵便局、商工会などが集合した商業施設「浜風きらら」がオープンします。お食事が出来る場所が新たに出来ることで相乗効果も期待出来ますので、この施設とうまく連携した広域的なツアーを考えているところです。観光客が増えることは地域の活性化にもつながります。今後も商工会と連携しながら地元復興の貢献をしていきたいですね。

 

 
――最後に今後の抱負を。

 

 
及川 船が動かないことには修理の必要もなく、私たちの仕事もありません。ですので、いまだ試験操業が続いている本県においては、新造船の需要が落ち着いてきたいま、将来的な見通しは大変厳しい思っています。そのため、近隣の茨城県や千葉県にも受注先を増やしていくことが出来ればと考えています。幸い、これらの地域では同業他社も少ないですので、本県の空いた分をここで少しでも挽回していければと思っています。

 

 
また、震災前にも手掛けていた大型船の造船にも取り組んでいきたい。現在、大型船の型枠は津波に流されてしまって手元にはなく、型枠を作るにもそれなりの費用が掛かってしまいますが、やはり大型船は利益も高いですのでリスクは承知しながら挑戦していきます。

 

 
当社では社員の高齢化が進んでおり、震災前より技術伝承が懸念材料でしたが、一昨年には地元高校の新卒者を2人採用することが出来ました。いままでは仕事が忙しくて何も出来なかったのですが、いまはだいぶ落ち着いてきましたので、今後は後継者育成にも力を入れていければと思います。

 

 
こうして再開出来たのも皆さんの協力があってこそでした。今後も地域に貢献していける企業を目指し、頑張っていきたいと思います。(聞き手・斎藤 翔)

 

 

■及川和英代表取締役略歴

 

和46年5月5日、宮城県石巻市生まれ。小名浜水産高校(現・いわき海星高校)を卒業後、家業に入り、専務取締役を経て平成25年に現職に就任。いわき市在住。趣味は散歩。

 

 

 

 

■企業 DATA

 

創業:昭和45年4月

 

所在地:いわき市久之浜町久之浜字館ノ山7

 

事業内容:新造船建造・修理、FRP製品の製造加工、観光船の運航

 

資本金:700万円

 

従業員数:8人

 

http://www6.plala.or.jp/oikawazousenn/

 

(財界ふくしま2016年8月号掲載)


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